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気づかず発生していた会社のパワハラに思うこと

周囲に認知されている、いわゆる「評判」のハラッサーについては、いざハラスメントが問題視されたときに、社内での証言や共感を得やすいかもしれません。

ところが現実には、「まさかあの人が…!」という人物が、周囲に悟られずにひっそりと加害しているケースもあるものです。そのような場合、被害者サイドがいかに証拠を確保するか、あるいは理解ある上司の存在というものが、解決に向けて大きく影響してくるでしょう。

 

私がかつて在職していたWEB制作事業の会社でも、やはりいろいろなトラブルがありました。その中でも、私自身がまったく気づかずに発生していたパワーハラスメントがあり、退職後、しばらくしてからその事実を聞かされ、たいへん驚いたものです。

しかも被害者は、自分と仲の良かった女性同僚。加害者というのが、仕事でそこそこ絡んでいた男性同僚Dだったので、初めて話を聞かされたときは、まさに青天の霹靂でした。

 

当時、女性同僚の川田さん(仮名)はデザイナーチームに在籍し、私はライターチームに所属していました。男性同僚Dは、川田さんと同じコンテンツを作る技術チームだったのですが、昼休みなど人気がないときをねらい、川田さんのデスクを通るとき、すれ違いざま小声で暴言を吐いていたということです。

「お前、ウザいんだよ」「いつまでいるつもりだ、早く辞めろよ」「チームのクソ荷物だな」
などなど……。

また、社内IPメッセンジャーで、発信元がわからないようにして、いやがらせのメッセを何度も送っていたということです。

 

意味がわからない……、というのが私の第一印象でした。
「(なぜ? なんのために? なぜ川田さんにだけ?)」
Dは、私と仕事で絡むときには、そのようなそぶりを見せたことは、一度もありませんでした。

 

Dは、身長180近くあり、ガタイがよくて、熊のように朴訥な感じのする男性。少々ぶっきらぼうではあるけれど、感情的になったり激したりするところは見たことがなく、どちらかといえば淡々としていて、私の隣のデスクの男性同僚Iとはよく、「猫村さん」の漫画の話などで盛り上がっていましたから、むしろ私としては、「無骨でシャイな、微笑ましい熊さんキャラ」くらいに認識していたのです。

ですから川田さんの話は、本当に仰天しました。

 

「Dがそうしてくる原因っていうか…、何か思い当たるようなフシってあったの?」
私がそう尋ねると、川田さんは首をふりました。
「さあ。単に私がおとなしそうで、後から入ってきた新人だったから、ストレス発散のターゲットにしやすかったんじゃないですか?」

川田さんは、決して嘘をつくような人ではありません。会社外でも何度か食事をしたり、飲みに行ったりしていましたから、人柄については個人的にもよく知っています。一見おとなしそうですが、とても芯が強く、自分というものを持っている賢い女性でした。仕事もしっかりとこなしていましたし、その他の人間関係は極めて良好でした。

 

川田さんは最初、直接Dに苦情を言ったそうです。
「どうしてこんなことするんですか。変なメッセ送るのもやめてください」と。

しかしDは、「は? 何のことですか?」としらばっくれるばかりで、一向に攻撃をやめない。仕方がないので、川田さんはしばらくして、チームリーダーの男性上司に相談しました。

このチームリーダーというのが、普段はあまり発言することのない、どちらかといえば影の薄い男性だと私は思っていたのですが、川田さんの話を聞き、意外や意外、すぐに対応してくれたそうです。

しかしDは、チームリーダーの聴取に対しても白を切り通しました。
「は? 何のことですか。証拠もないのに、変なこと言わないでくださいよ。川田さんの妄想じゃないですか? ヤバイですよ、あの人」
などと、逆に川田さんを妄想狂扱いしてくる始末です。

 

チームリーダーは、川田さんを全面的にかばいました。彼はDからの聴取を終え、川田さんにこう伝えたそうです。

「D君は、自分はそんなことしていないし、証拠だってないだろう……と言っているけれど、俺は川田さんを信じるから。こんなことを、何の根拠もなしにわざわざ相談してくるはずはない。たしかに証拠は無いけれど、川田さんは正直に話しているんだと思う。俺の考えは、D君にも伝えてあるから。自分は今後、いろいろなところでD君の動向を見張っているよ、と。だからまた嫌なことがあったら、すぐに言ってきてほしい」

それ以来、パワハラはぱたっと止んだそうです。

私は正直、このチームリーダーのことを、普段から「響くような主張も仕事のアピールもしないし、何だか優柔不断な感じのする人だなあ」と、少し頼りない気持ちで見ていたのですが、まったく違う誠実な一面と、信頼できる人間性、また適切なリーダーシップを知り、評価を新たにしたのでした。

また同時に、チームリーダー対してもDに対しても、まったく「ひとを見る目」のなかった自分の、真贋を見分ける目の未熟さに、しばし呆然ともしたのですが。

 

人の本質というのは、普段接している外見からは、なかなかわからないものです。

クルト・ワイル(三文オペラ)「匕首マッキー(マック・ザ・ナイフ)」の歌詞ではありませんが、凶悪事件の加害者の容貌が、いつでも「牙がズラリと並んでいるサメ」だと思ったら大間違い。実際には、優しげで穏やかな笑顔の裏に、凶器のドスを隠し持っているということは、多々あります。

 

私が今回ご紹介したのはパワハラのパターンですが、セクハラのほうはもっとわかりにくく、ハラッサーは周囲に悟られないよう、また証拠を残さないよう、周到に加害に及びがちです。

セクハラハラッサー男性というのは、同性の同僚や上司に見せる顔と、パワー関係が下にある女性に見せる顔とでは、見せる顔がまったく異なります。彼らは力関係が同等、あるいは上位の人間には決して見せない一面を、「立場が下の女性」にだけ、スキをついて露呈してくるのです。

 

しかし周囲は、加害者が「評判のハラッサー」でもない限り、そうそう事実に気づくことはありません。実際に女子社員が無理に壁ドンされたり、卑猥な言葉を投げかけられたりする場面でも目撃しなければ、裏の顔には気づかないのが常でしょう。

なぜならば人は無意識のうちに、自分のなかの「善意」に沿って物事を処理しようとするからです。倫理の中に生きている男性は、倫理外に住んでいる男性のセクハラ加害心理を、歪曲スコープ越しに見にくいのです。

加えてセクハラというものは、女性側の羞恥心や戸惑いにより、被害を申告できないという「女性側の沈黙」を期待して行われることが多いので、周囲は殊更、気づきにくいのだと思います。

しかし現実として、セクハラや性犯罪のニュースが途絶えないように、実際には、日常茶飯事で転がっている出来事ですし、バレなければよい、という意識領域で生きている人は、案外身近に存在するものです。

 

いろいろな人を見てきて思うのですが、人間というものは、自分のメイン領域以外の意識層につき、たやすく想像力を広げられない生き物ではないでしょうか。共感力には個人差がありますが、少なくとも「加害意識」のない人が、顕在化していない「他者の加害意識」に気づくことは、むずかしいと思います。

 

現に私も、同じフロアで仕事をしていながら、川田さんのパワハラ被害に気づきませんでしたし、またあるいは、自分に「万引きをする心理」がないため、実際に万引きをする人の心理や行動にはまったく無頓着に買い物をしているとも思います。品物を選ぶとき、隣の人の手元に着目してはしていないので、だからこそ、もしかしたら今までも、いくつもの万引きを見過ごしていたかもしれないのです。

 

隣を疑え、というと嫌な表現ですが、「自分はしない」を一歩出て、「自分はしないが、隣のこの人はするかもしれない」という疑念を持つ、いわば「注意力」というものは、実社会を生きるに大事な視点ではないでしょうか。その注意力が、他の誰かや、自分の大切な人を救う手立てになるかもしれないからです。

「加害意識」を知り、「被害意識」に共感する。自分領域以外の意識多層にシンクロしてみることが、必要なのだと思います。

そして双方を認知したうえで、弱者側の立場や心の痛みを、自分のものとして追跡(トレース)してみる―――これはハラスメントに限らず、身体の不自由な方、児童、妊婦、シングルマザー、疾病者、高齢者層、非正規職員など、すべての弱者的領域について―――が、望ましいと思うのですが。

 

各自が注意力を養い、弱者意識のトレースにチャレンジしてみる。それだけでずいぶんと、この社会は優しい住処になるのではないでしょうか。

 

 

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男性保育士問題は「機会の平等」と「職業選択の自由」を担保したうえで、業務内容区分の措置を講ずべき

男性保育士の可否については、複数のライターさんが腑に落ちる記事を書いてくださっているので、私自身が言語化しなくてもよいかと思いましたが、やはり私個人の経験からお伝えできることもあるので、記事にしておきます。

結論から申し上げると、私は「男性保育士を認めたうえで、業務内容の区別措置を講ずるのが適切」だと考えます。その理由を以下に記載します。

 

【他国の女児に対する扱い】

まず、他国の女児への扱いを見てみましょう。「性」の人権価値、女性の性的自己決定権については各国共通の普遍的な事柄ですから、他国を参考にすることは極めて妥当です。

アメリカやヨーロッパでは、父親と娘が一緒にお風呂に入るのもNGです。密室で何が行われているかわからない環境に、たとえ父親であれ男性と女児を一緒にするのは、一種の児童虐待であると考えるからです。

アメリカやヨーロッパなどの欧米諸国では、お風呂場はプライバシーが守られるべき場所という考えが強く、それを侵害するのは犯罪にもなりかねないほど非常識なことです。

とある先進国に在住の邦人一家では、現地校に通っている娘さんが、作文に「お父さんとお風呂にはいるのが楽しみです」と書いたところ、学校から警察に通報され、父親が性的虐待の疑いで逮捕されてしまったということです。

それほどまでに、女児の性的人権を国全体で保護する意識が根付いています。

 

【女児が性的対象であるという事実】

子供の頃から「スカートめくり」があるように、女児に対し、幼児期から(幼児同士であれ)、男性の性的関心が存在しているのは現実です。すべての男性が成長とともに、自分と同年齢の大人の女性を性的対象とするとは限りません。

そもそも、自我の確立した成熟した女性を求める国柄であれば、JKビジネスがこれほどもてはやされるわけはありません。女児が一定数の男性にとって「性的対象」であるという現実を、もっと直視すべきでしょう。

 

ちなみに私が初めて痴漢にあったのは、四歳のときです。しかしそれを語ったのは、これが初めてです。親にも誰にも言ったことはありません。
通行人が来たため、痴漢はすぐに逃げましたが、女児の性被害というのは、これほどまでに発信に時間のブランクを要する、女性にとって語りにくい、心に傷を負う出来事といえます。

私は文章も書きハラスメントの資格を持つなど、ある程度は表現能力のある人間ですが、その私ですらこうですから、黙秘されている被害は世間には数えきれないほどあるでしょう。

ちなみに私の知人女性も、八歳のときに初めて痴漢にあい、そのことを周囲に言えるようになったのは、五十歳を過ぎてからだと語っていました。

 

多くの人に知っていただきたいのは、今、世間で明るみに出ている性被害やセクハラは、「見える星の数」です。実際の被害は「見えない星の数」だけ存在しています。そしてそれは「忘れてしまった」からではなく、女性の多くが「傷ついて言い出せなかった」からなのです。

ましてや女児ともなれば、何をどのように伝えてよいかすらわからず、しかし人権侵害をされたという言語化できない屈辱感と嫌悪感は消えず、生涯を通じて、心に傷を残すこととなるでしょう。

性被害を事前にブロックできる措置は、可能な限り講ずるべきです。性被害というのは、起こるか起こらないかの「テロ」ではなく、工事現場の「落下防止ネット」と同じくらい、防止措置を講じて当然のものと考えるべきです。

 

【女児自身のメンタルヘルスと防衛】

また私は、男性保育士に着替えやトイレを任せることによる、女児自身の心理的負荷にも着目します。

女児であっても、男性への性的恐怖や性的羞恥心には、個人差があります。私は男性保育士に世話をされた経験がありませんが、もし幼児期、自分が男性保育士に、着替えやトイレの世話をされたら、とても嫌だったであろうという確信はあります。
たとえ男性保育士に性的意図がなかったとしても、やはり抵抗感があるでしょう。

女児個人の性質により、感じ方は違います。男性保育士の着替えやトイレを容認すると、人生に影響を及ぼすトラウマになる危険性もありますから、メンタルヘルスの側面から、女児への配慮が求められます。

「子供は無邪気」のような決めつけは大人の幻想です。

日本ではむしろ、「性的に無邪気でない女児」に対して、「ませている」など、悪印象を抱く傾向がありますが、それは反面、性的被害にあったときにも「無邪気を装わなければいけない」という圧力を与え、被害を告発できない心理的呪縛を生み、ともすれば被害を受けたことが「無邪気でない自分」の責任であるかのような罪悪感へと転化し、性被害を申告しにくい環境を作りあげてもいるのです。

「早熟でませている」という雑駁な視点と、「早期に性的価値を自覚し自己防衛意識を高める」という視点は別です。

子供自身に幼児期から、「性的に無邪気でない」ことこそが、個人の重要な自己防衛権利であると教え、「毅然とした拒絶」が正当化され、慣習化される教育と環境づくりを推奨し、男女ともにその意識を浸透させることが、気軽に性加害を起こせない社会づくりにつながり、ひいては性犯罪抑止にも資するのではないでしょうか。

 

【男性保育士と男性医師との比較について】

男性保育士と男性医師を比較し、「男性医師は専門性が高いから女性患者を診られるのに、男性保育士が女児の着替えを手伝えないのは、保育士を下に見る職業差別だ」と、問題が「専門性」に及ぶ意見もありますが、私は保育士と医師を比較すること自体が失当であると考えます。

男性側のプライドとしての専門性バイアスを語る前に、受動者である「女性個人の人権問題」が先です。もっと総括的に、性的な扱いに対して全般の保護を強化するべきでしょう。

 

なぜそう言えるかといいますと、私自身が、乳がん検診の際、密室で医師からセクハラを受けた経験があるからです。その点で、私は男性医師も男性保育士も、潜在的な性加害可能性は変わらないと思っています。

女性患者は皆、医師がセクハラをするなどとは疑いもせず、「医師としての視点」を前提に診療室に入ります。しかし実際のところ、その信頼を悪用する医師も存在します。

私が検診を受けた医師は、私に対する性的関心を露骨に示し、その態度を隠そうともせず、裸を見て、乳がんとは無関係の卑猥な発言をしてきました。その際、女性看護師の立ち合いなどはなかったため、それらは証明できません。「医師としての視点」がないのであれば、診療とはいえず、ただのわいせつ行為です。

 

じつは医療機関での性被害やセクハラは、驚くほど多く、それなのに、そのほとんどが表面化することなく隠ぺいされています。ドクターセクハラ、いわゆる「ドクセクハラ」は、今や幼児の性被害より深刻かもしれません。

私はこの件につき、匿名でほかの女性たちと情報共有したことがあります。私のもとには、たくさんの女性から医療機関でのセクハラ被害報告が寄せられました。
やはり乳がん検診が最も多く、その他には内科や耳鼻科、はては美容外科クリニックにおいての被害報告もありました。そしてそのなかの誰一人として、被害を明るみに出した女性はいない、というのが現実です。

 

なぜなら診療室というのは、極めて証拠の取りにくい密室であり、また知識のうえで上位に立つ医師が「強者」となり、患者との間には一種の心理的な上下支配関係が存在し、「強者」たる医師の恣意的言動が放置される場所だからです。患者側には「弱者」として、さまざまな従属が強いられます。

「密室での出来事なので証明できない(テリトリーの弱者)」
「おそらく皆、社会的地位のある医師の発言を信じるだろう(立場の弱者)」
「医療行為だと主張されたらそれまでだ(知識の弱者)」

このような考えから、強度の精神的外傷を受けながらも告発できずに、女性は泣き寝入りしてしまうのです。

 

男性保育士も同様に、保育所という閉鎖された空間で、弱者である児童との間に、ある種の上下支配関係が発生することは否めません。抵抗力と性的知識の乏しい児童に対し、恣意的な行動が許される「強者」となり得ることは事実です。

私の経験上、「職業的信頼」という善意は、いともたやすく裏切られますし、「強者」としての特権が正義のうちに正しく行使されるのか否か、こちらからは全くわからないのです。

女児を預ける両親が「着替えやトイレトレーニングを男性保育士にさせないでほしい」という申し出は、極めて自然な懸念であり、英断であるといえます。

 

【具体的な施策と、それによるメリット】

では、男性保育士を排除すればよいのかというと、それも合理的ではありません。
実際に保育士が不足している現状、また、日本国憲法13条の幸福追求権、14条の平等権、22条の職業選択の自由に鑑み、職への希望を断つことは不当であると考えます。純粋に子供が好きで、保育士として活躍したい男性もいますので、「機会の平等」を担保したうえで、業務内容を分類して、区別することが望ましいのではないでしょうか。
男性保育士への指導教育、監視を徹底し、着替え、トイレなどの性的配慮が求められる業務については、女性保育士が行えばよいと思います。

「いちいちそんなことをしていたら仕事にならない」

現場ではこのような声も聞こえてきそうですが、シフト制にして、女性保育士不在の時間帯は、女性パートアルバイトを雇いサポートしてもらえば、不可能ではないと思います。リタイアした女性高齢者の雇用拡大にもつながるのではないでしょうか。

 

男性保育士問題は、長期的なビジョンでの対応が求められる事案です。なぜなら女性が仕事をしながら安心して子供を預けられる環境を整備することは、女性活躍推進、男女共同参画の政策に合致しますし、ひいては経済的発展にも資するのです。

また近年、男児の性被害も増加している傾向から、女児への性被害防止措置を講ずることで、男女雇用機会均等法十一条セクハラ条項が、「女性対象」から「男女対象」へと段階的に発展を遂げたよう、結果的に児童全体への保護が徹底化される糸口ともなり得ます。まず枠組みを作ることによって、受益者が増えるのです。

 

【結論】

よって、私は「男性保育士を認めたうえで、業務内容の区別措置を講じ、場合によっては女性パートアルアルバイトを雇い、対応するのが適切」だと考えます。

そのうえで男性保育士側には、女児を扱う際の注意事項を喚起するなどの指導を行い、同時に徹底した監視がなされることを望みます。

また、女児には幼いうちから自己の性的価値を認知させ、むやみに異性が自己の身体の「性的保護部分(ボディプライベートスペース)」に接触したり、またはそれを見るために着衣を脱がそうとしたりするなどの行為に及んだら、大声を上げる、拒絶する、逃げる、周囲に速やかに伝えるなど、保育所において、自己防衛教育を行うことが重要であると思惟します。

最後に補足として、男性保育士が抱える職場環境問題として、職員のための男性用トイレが未だ設置されていない実情が散見しています。意欲低下、プライバシーの保護等、就業継続の弊害となり得ますので、事業主は労働安全衛生規則第628条を遵守し、早急にトイレを女性用と男性用とで分離し、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保されるべきと考えます。

 

#男性保育士 #保育士 #保育園 #ドクセクハラ

「減るもんじゃなし」という発想は不法占有である

「たいせつなことはね、目に見えないんだよ……」
サン=テグジュペリ作、『星の王子さま』書中のせりふです。
おっしゃる通りで、大切な価値というのは目にみえません。

 

暗転して恐縮ですが、強姦罪が軽視されるのは、たとえば「男性器を切り取られる」等のケースと異なり、可視化できる「物理的な被害物体」が存在しないことも一因ではないでしょうか。

しかし当然ですが、可視化できないからといって、重篤な被害が存在しないわけではありません。むしろ視認できないからこそ、魂の引き裂かれるような絶望と精神的外傷は、共感力をもって深く理解されなければいけないでしょう。

 

早ければ二〇一七年から性犯罪が厳罰化される見通しです。強姦罪が懲役「三年」以上から「五年」以上になるなど、刑法が改正される可能性が高いようです。世論では「ようやくか…」という歓迎の声が上がっていますが、私はこれでもまだまだ甘いと感じています。

しかしいずれにしても、性被害の精神的損害を、測量し数値化できないという点は変わりません。

強姦罪以外の、セクハラや痴漢の性犯罪に対しては、一層軽視されています。「いいじゃないか、減るもんじゃなし」というご意見の捨てゼリフも何度か耳にしてきました。

当然の話なのですが、「女性性」は、個人所有の財産です。

しかしそのことをまったく理解できていない男性が、じつに多いのです。この宇宙時代、未だに女性は「男性の性消費物」か「従属させられる下位のメイド」か、あるいは「マリア様か妖精か」と勘違いしている、摩訶不思議な「呪い」にかけられてしまったドリーミイな男性が、巷にあふれかえっているように感じます。

 

私自身のセミナーでもたびたび説明してきたのですが、「女性性」は女性個人の権利財産であり、男性が勝手に侵害することは許されません。

もしも痴漢やセクハラといった女性性侵害に対し、「この程度で目くじらたてるな」「減るもんじゃなし」という発想を少しでもお持ちの男性がいるならば、その方は、まず自分の財産が同様に侵害され、搾取されるシーンを想像していただきたいと思うのです。

例えばもし、自分の財布から他者が勝手に千円抜き取ったら。そして怒ったところ、その窃盗犯から「千円くらいで何真剣に怒ってるんだ」と、逆ギレされたらどう思うでしょうか。

あるいは、誰かがあなたの土地に、勝手に家を建てたなら。それは物理的には欠損していませんが、違法な不法占有です。

あなたが驚いて退去を命じたところ、「なんだよ、減るもんじゃなし!」と、居丈高に開き直られたら。不愉快云々という以前に、相手の倫理を疑わないでしょうか。

女性というのは、自分の「性」に対して、このように理不尽な侵害を、いともたやすく強いられます。生まれたときから。ありとあらゆる場面で。あらゆる立場の男性から。

性的自己決定権や性的領域という、目に見えないものの価値は、とてつもなく尊いはずなのですが。

「減るもんじゃない? あのね、この土地は私のものなんですよ。立て札? 立ててあるわけではないけれど、不動産登記をしてありますから、あなたが勝手に侵入したり、あまつさえ勝手に建築物を建てる権利などないのですよ。いや、常識の問題です。ええ、減るわけではありませんよ。減らなければ勝手に何してもいいというものじゃないでしょう。は? 『へ理窟ばっかりこねてこざかしい?』……いえいえ、あのね、子供にお話しするようにもう一度言いますよ。これは私の権利所有であって、あなたのものではないんです。あなたが勝手に侵入したり居座ったり、ゴミを捨てたり、つばを吐いたり、キャッチボールしたりする権利は、残念ながらないんですよ……」

 

感覚としては、おわかりいただけるでしょうか。

要するに、女性性は「個人の私有財産」であり、男性の娯楽のために勝手に消費してよいものではないし、逆に貶めてよいものでもないということなのです。

土地にも、新旧、駅近、日当たり等の、個性は存在するかもしれません。しかし日当たりが悪いからといって、侮蔑して私有地にゴミを投げ捨ててよいものでもありませんし、時流や目的用途により、土地の価値は変動するものですから、少なくとも通りすがりの一個人がジャッジする資格などはありません。

もちろん雑草が生えていたとして、一通行人が、「女子力をあげろ」の意図で、他者の土地を「きれいにしておきなさい」と命令する権限など、さらさらないのです。

大切なのは「他人の私有地」であるという財産制と、それが「男性のものではない」という厳然たる事実です。

 

痴漢、性犯罪、セクハラ。これらは一見「減るもんじゃない」と見えたとしても、じつは女性に対し甚大な損害を与えています。

女性を性的側面でしか見ず、「オンナ」扱いすることに危機感を覚えないという男性は、改めてこの女性固有財産制を意識していただきたいと思います。それは他人の「性的自己決定権」という私有地に、ずかずかと踏み込み、「オレ像」モニュメントを勝手に打ち建てるかのごとく、自分本位な不法占有といえるのです。

 

「いいじゃないか、何かが減ったわけじゃないんだから。むしろいい土地だと目を付けてやって、モニュメントなんてプレゼントされて、ありがたがるべきだろう」

撤去どころか反省の色すら見せない、このような視座の男性は、実際には結構いるものです。

他人の所有地に無断で押し入り、趣味の悪い銅像を建て、そうすることが当然であるかのように不遜に振る舞うのは不当であると、どうか認識していただきたいのです。

職場で女性を「女」とみなすホステス「搾取」。
性的質問や性的ジョークを浴びせることによる女性性の「消費」。
あるいは年齢や容姿で価値づけたり、美しく着飾って性的価値を上げるよう要請したりする「利用」。
これらはすべて「固有財産侵害」です。

そのことに気づくことが、良好な人間関係を構築する、個人尊重への近道といえるでしょう。

 

 

 

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有馬珠子の「働く人のハラスメント川柳&短歌」

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「ホステスハラスメント」 その四:女性を〇〇ちゃんと呼ぶ危険

 H部長はお酒が進み、ますます上機嫌です。
ここで彼は、たいへん基礎的なあやまちをおかします。H部長はこのようにいいました。

「A子ちゃん、ほら、もっと飲んで」
A子さんは、すぐさまこの呼び方を辞退しました。
「その呼び方はちょっと……。そういう呼ばれ方には私、慣れていませんので」

H部長は、ああ、そう、と、特に気にはとめていないご様子です。A子さんの申し出を受けて呼び方は苗字にもどりましたが、驚いたことにH部長は、自分の発言に何の疑問も抱いていないようでした。

ちなみにH部長は、国内でも有名な大手宝飾メーカーの、それなりの地位にいる方です。彼の頭の中を通して、日本企業の男性意識がどの程度にあるのか、その水準をはかり知る契機となったのではないでしょうか。
真の男女共同参画の実現は、まだまだ先のようですね。

 

「ちゃんづけ」の不快感に関しては、「ご説明する必要はございませんね」と言いたいところですが、ご説明しなければならない水準でしたことを大変遺憾に思います。

厳しくご注意申し上げたいのですが、女性を勝手に、「ちゃんづけ」で呼んではいけません。

すでに過去に議論しつくされたかに思えたこの禁忌ですが、H部長があまりに軽々と失言されましたので、改めて女性の不快感情をていねいにご説明差し上げます。

男性が親しみをこめたつもりで呼ぶ「A子ちゃん」呼称は、女性にとって不快な馴れ馴れしさでしかない、という心境をご理解いただきたいのです。

なぜならば「女性」というものを男性視点でひとくくりにまとめ、ペットか子どもか、あるいはホステスさんのように、自分本位なカテゴリーで括ることになるからです。
女性という個人を、断りもなく矮小な下位存在に設定してしまう、「侵略要素」が根底にあることに気づいていただきたいと思います。

 

ちゃんづけには「人間・女性」として尊重する意識が感じられません。社会人として対等な目線で接する、大人同士のマナーや距離感も存在していません。

例外として、子供の頃からお互いを知っていて、「みよちゃん」「たかしちゃん」などと呼びあうことが通例となっている場合は別でしょう。あるいは職場で「わたなべさん」という女性が通称で「なべちゃん」と呼ばれている場合や、全員から「田中ちゃん」と苗字で呼ばれている場合をのぞきます。
なぜなら「みよちゃん」も「なべちゃん」も「田中ちゃん」も、勝手に「性・女性」を押しつけ、セクシュアルに仕分けている素養がないからです。おんなのこを押し付けているわけではない、対等な「人間対人間」の目線が存在しています。

 

ここでまた、ダブルスタンダードの復習をしましょう。
A子さんは、「性・女性」「人間・女性」、どちらの女性かおわかりでしょうか。
そう、「人間・女性」ですね。

ところがH部長は、日本に昔から存在するひじょうにステレオタイプの「セクハラ無自覚の男性」で、ビジュアルや表面的な礼儀正しさから、A子さんのことをオートマティックに「性・女性」だと思い込んでいます。
そしてその枠へと勝手に仕分けていることが、A子さんに不快感を与えています。

この「ちゃんづけ侵害」に対する女性の不快感は、男性に理解していただく例えを用いることはむずかしいかもしれません。

以前、私がセクハラ相談を受けた女性は、「ちゃんづけ」の不快感をこのように言っていました。

「勝手に〇〇ちゃんて呼んでくるなんて、キショク悪い。誰がいつ、そんな馴れ馴れしい呼び方許可したっていうのかしら。男性だったら、親しくもない上司から、いきなり股間つかまれるのと同じような、気味の悪い不意打ちのコミュニケーションだと思うんですよね。男って、どうしてそれがわからないのかしら」

たしかに、感じかたには個人差があります。

しかし少なくとも私は上記意見に賛成ですし、実際、この例えをいきすぎの表現だと悠長にかまえてもいられない現実があるのです。
それを次回、「労災の認定基準」でご説明したいと思います。

 

 

(その五につづく)

「ホステスハラスメント」 その三:女性と「人間 対 人間」の会話ができない古さ

ブランド話に興味のなかったA子さんは、話題をかえて旅行の話を切り出しました。

ほかの知人たちにも話したように、旅先の自然がすばらしかったことや、現地スタッフが日本人に好意的で楽しかったことなどを話題にし、仕切り直そうとしました。

「うらやましいな。俺はなかなかそこまでの長期休みは無理だな」

H部長はそう言って、あれこれ食べ物を注文しました。そしてビールを飲みながら調子が出てきたのか、H部長は饒舌になり、自分の話をはじめました。

「そうだ、これ見てくれよ。ほらほら、俺の高校の時の写真」

そうはしゃぎながら、自分の携帯に保存してあった証明写真らしき白黒の画像をA子に見せます。今と違い、頭髪がふさふさと豊かに生えていました。

「あら、さわやかじゃないですか」

A子さんにとっては関心のない話題でしたが、仕方なくお世辞でそう返しました。

「だろ? だろ? ちょっとあれ、俳優のアイツ、綾野剛! に似てないか?」

どうでもいいよと思いながら、A子さんは「そうですねー」と社交辞令であいづちを打ちました。H部長はひとりで楽しそうです。

A子さんはこの時点でH部長の態度にかなりうんざりしていましたので、話題を変えようと、自分もスマホに保存してあった画像を見せました。

「私、被災地の動物ボランティアに登録していまして、この子たちは一時預かりしている猫たちなんですよ。ほら、かわいいでしょう? とりあえず数カ月はうちにいることが決まっているんですが。H部長、里親いかがですか。たしか今はおひとり住まいで、ペットも飼っていらっしゃらないんですよね」

そういって、猫たちの画像を見せました。

「昼間は仕事で出てるしな。世話できないから」

H部長はその話題には興味がないらしく、あっさりと終了しました。

 

まずここまでで、ファーストレッスンといたしましょう。分からない方のために、ひとつひとつ丁寧にレクチャーしていきます。A子さんはなぜ、この時点ですでにうんざりしていたのでしょうか。
H部長とA子さんは、どこがどのように、かみ合っていないのでしょうか。わからないという方は、自らも女性に対し無自覚にセクシュアルハラスメントをしているかもしれません。

 

ご説明致します。
まずA子さんがH部長にお土産を渡しにおもむいたのは、かつて仕事関連で便宜をはかっていただいた感謝と、社会人としての仕事の顔つなぎを願ってのことです。いわゆる「人間としての感謝」と、「職業人としてのあいさつ」から再会をはたしたのです。

それをH部長は、何か思い違いをなさったようで、A子さんが「女性」であることを利用して、単に自分の楽しみのために、A子さんに「お相手」をさせ、その存在を「女性」として消費するだけの会話をかわそうとしています。

まずここが、根本的にアウトです。

H部長は、自分が一緒にお酒を飲むのに楽しい「高級ブランドの話のできる」「華やかな女性」像を勝手につくりあげ、A子さんをひたすらそのホステス枠に押し込めようとしているようです。

しかしA子さんご自身は、そのような希望に沿うタイプの女性ではありません。A子さんが大阪のおばちゃんさながらに庶民派の気楽さをアピールすれば、H部長はそれにとまどいを感じ、「ホステストーク」にのってこないA子さんに失望感をあらわにしています。

H部長は、自分の楽しみに目を向け、本来のA子さんの性質―おおらかで豪快な、ヒューマニズムあふれるキャラクター……をいっさい見ようとしていない。その一方通行な男性優位視点が、A子さんを不愉快にしているのです。

最初からA子さんの人格を見ようという気はなく、自分が好む「セクシュアルで、ブランドを付ける華やかな女性」「酒の相手をしてくれるかわいらしい受け身のホステス像」に捻じ曲げ、「おんなのこ」虚像を押しつけています。

社会に出ると、女性はこのように、女性であるというだけで、人間性を踏みにじられる場面によく遭遇します。

勝手に軽んじられ、格下に扱われる。「おんなのこ」扱いされる。そしてそのことに端を発し、セクシュアルな会話やムードを押し付けられるという「ホステスハラスメント」を受けるのです。

 

つぎにまいりましょう。

H部長が自分の若かりし頃の、髪の毛ふさふさの、ちょっと写りのよい写真をA子さんに見せてはしゃいでいる行為。これを果たして「A子さんも楽しんでいる」と思われるでしょうか。

聡い方はすでにお分かりかと思いますが、A子さんは微塵も楽しくありません。

たしかに飲み会で昔の写真を持ち出すことは、相手との関係性によっては、とても楽しいネタになり得ます。

たとえば気のおけない同級生たちの飲み会で、男子が「ほらほら昔のオレ、トム・クルーズに似てるだろ?」と尋ね、それに女子がしらけたように、「あーにてるにてる。……って、似てねぇよ!」などと突っ込みをいれて、爆笑できるような場合などは両者ともに楽しんでいるのでしょう。それは対等な友情関係や信頼がベースにあってこそ、共に楽しむツールとして盛り上がれるのです。

 

しかしH部長のケースは違います。

H部長はご自身に優位性にあると認知しながら、一方的にA子さんにを利用しています。

少々男前に映っている昔の自分の写真を、「ディスれない立場」の女性に見せ、ほぼ強制的に肯定的な答えを導き、悦にいるというのは、紳士としてあまり美しい行動とはいえません。

H部長は、「人間・女性」であるA子さんを、「性・女性」の鋳型に無理やり押し込め、ご自身の男性自己顕示欲を満たすための会話を一方的に進めています。

なにせ相手は「仕事で便宜をはかってあげた」「かなり年下の」「自分より立場が下の」「受動的に聞かざるを得ない立場」の女性です。どれほど興味のないセクシュアルな自慢話をふられたとしても、仕方なく聞かざるをえない立ち位置におかれていますから。

 

本来、このような会話をしてくださるお相手はどなたでしょうか。

お金をもらい、男性の退屈話にも耳を傾け、会話を成立させてくださるホステスさんです。H部長はそのたいくつな役割を、一方的にA子さんに押しつけています。

H部長は、A子さんが真にもとめている動物愛護など、セクシュアルを排除した話題には乗り気でないご様子です。あるいはのってきたとしても、おそらくH部長の思考回路ですと、「動物にやさしい心清らかな女の子」というような無駄な変換をして、自分本位なラベルを貼ってしまうのではないでしょうか。

 

どうやらH部長は、A子さんのことを「自分のお相手をして楽しませてくれるホステスさん」とかん違いしているようです。
これを「ホステスハラスメント」といいます。私の造語なのですが。

男性一方通行の「ホステスハラスメント」を、セクハラだと認識できない男性は、職場でも実社会でも星の数ほどいらっしゃいます。これは女性にとってたいへんストレスのたまるグレーゾーンセクハラですので、お心当たりのある男性には改めていただけるよう、広く啓蒙していきたいと思っています。

ホステスハラスメントとは、女性に「ホステスさん」役を押しつけて「セクシュアルな会話や雰囲気」を一方的に貪ろうとするハラスメントです。

ホステスハラスメント加害は、あからさまな「性的話題」を持ち出すことに限りません。だからこそ明確なセクシュアルハラスメントとして「検挙」されにくい、たちの悪いセクシュアルハラスメントといえます。

ホステスハラスメントは女性を「人間・女性」でなく「性・女性」枠に押し込めて、そのようなニュアンスを会話のはしばしににじませることで成立します。そしてそれは女性をたいへん不愉快にさせる「支配」「隷属」であり、人格権の侵害にもなり得ます。性存在を押し付けることは、セクハラであるということに、お気づきいただきたいと思います。

 

ホステスハラスメント。
まずはこの言葉を知ってください。

繰り返しますが、女性は「性・女性」だけでなく「人間・女性」も多く存在します。わたしを含め女性たちは、男性を楽しませるために存在している喜び組ではございません。世界は男性の娯楽や快楽を中心にまわっているわけではないのです。

セクシュアルな会話や雰囲気を楽しみたいのであれば、ぜひお金を払ってクラブに行かれることをお薦めいたします。

H部長は、このホステスハラスメントのハラッサーになっていることにご自身で気づくことはありません。お話はまだ続きますが、読者の皆様は「ここもホスハラだ」と意識し、気づきを得ながら読み進めていただきたいと思います。

 

  

(その四につづく)

「ホステスハラスメント」 その二:人の目のないところで急にホステス扱いしてくる男性

WEBデザイナーのA子さんは、独立してフリーで仕事をはじめました。

安定はしていませんでしたが、技術とセンスに恵まれていたので、それなりに仕事もくるようになりました。何より以前の会社で培った人脈が生き、声をかけてもらえることも多かったのです。クリエイティブ業界の中フリーでやっていくには、口コミと人脈と信頼がとても重要です。

A子さんは以前の会社に勤めているとき、さまざまな会社の方と仕事をしていました。
老舗宝飾メーカー、株式会社×××のH部長もそのひとりです。年齢は五十歳をすこし過ぎたくらいでしょうか。A子さんとはかねてから仕事を通じてでよい関係を築いており、在職中も何かと親切にしてくださいました。
A子さんが仕事の関連でめんどうな処理をせまられたときも、A子さんのために便宜をはかってくれて、しかもその内容はH部長の立場上、多少めんどうな経緯が想像できたため、A子さんはそのことをひじょうに感謝していました。

「一度はきちんとお礼を言っておかなければならない」

A子さんは常日頃そのように考えていました。

 

時間に余裕のできたA子さんは、友人と海外旅行に行くことにしました。

南国でバカンスを楽しんだA子さんは、顔つなぎも兼ねて、仕事関係者にお土産を渡してまわりました。出版社の編集者や、知人でおなじくフリーで情報交換をするデザイナーやイラストレーター、ライターたち。男性も女性も、誰もが一杯飲みながらA子さんの旅行話に耳を傾け、帰国の無事と土産を喜んでくれたのです。

「はい、この小物入れは△△さんだけだから」

A子さんはそう言って笑いながらみんなに、少しずつデザインの違う「オンリーワン」のお土産を配りました。男性も女性も笑顔で受け取り、楽しい旅行の話に花が咲きました。

 

A子さんはよい機会なので、H部長にもお土産を渡しがてら、改めてお礼を言うことにしました。感謝の気持ちはもちろんのこと、起業のプランも抱えていた矢先、何かあれば人脈を仕事に生かしたいと考えてのことでした。市場に精通している人だったので、情報収集も期待していました。

 

H部長の業務終了の都合なども考え、お店の場所はみずから指定せずにH部長にお任せました。H部長は、自社××株式会社の近くの大衆中華料理のチェーン店を指定してきました。

「仕事後だから、夕飯を食べながら一杯飲みたいのかな」

A子さんはそう考えそこに赴きました。

久しぶりにH部長と対面し、A子さんは気さくにあいさつをしました。思えば会社以外でH部長と会うのは初めてです。まずは仕事で便宜をはかってもらった礼を丁寧に告げ、海外旅行に行ったことを伝えて、お土産を渡しました。

知人や仕事関係者に配るため、まとめ買いした小物でしたが、適当な袋がなかったため、ブランドの紙袋に入れて持参しました。H部長が持ち帰りやすい手提げがあったほうがよいと考慮してのことでした。

「海外旅行のお土産をお渡ししたくて」と言ってそれを取り出すと、H部長は間髪いれずに言いました。

「お、エルメスの袋だね」

お土産の中身はエルメスではありません。

「袋だけですよ。中身は日常使いできる小物なんですけど。現地では人気のお土産らしいです」

そう言って手渡すと、H部長はお礼を言って受け取りました。

手渡しするとH部長は、A子さんのはめていたファッションリングに目をとめて、すぐにそれを話題にしました。

「お、ダイヤじゃないの。俺のリングと似てるじゃない」

そのように言い、H部長はご自分の手をA子さんに見せました。

ちなみにA子さんは、自分の持ち物があからさまにブランドものだとわかるもの以外、その値段を話題に出されたときは、安い額を言うことにしていました。なぜなら、それがたまたま高価だった場合、本当の値段を言うことで「気取っている」と思われ、相手との距離ができるのが嫌だったからです。
なにより、「自分はこんな高いものを身に着けてるのよ」とステイタスをアピールするようで、それは俗っぽくて恥ずかしくもあったからでした。もちろん、気の置けない友人には本当の額を言っていましたし、大阪人のように、実際に安かったものは堂々と安さを自慢していたのですが。

「ああ、これ? これ、ユザワヤで300円で買ったリングですよ。見えないでしょ?」

A子さんはそういって、大阪のおばちゃんのようにアハハハハと豪快に笑いました。本当はかなり高価な品だったのですが。

しかしそう語ったとたん、H部長の視線はきゅうに冷めたようになり、口調がトーンダウン気味になったことにA子は気づきました。

「俺のは本物だよ」

そういって一連取り巻きのダイヤリングを見せました。それを見てA子さんはふと感じたのです。

「この人はブランドや高価なものが好きなのかな」

そういえば、仕事で接していたときも、みずから高級車の話題をふってくることがたびたびありました。しかしそのときは業務の合間で、周囲にほかの社員もいたので、「じゃあその高級車で皆でドライブパーティーに出かけましょうか」「中でスナック食べちゃいますよ」などと、みんなでわきあいあいネタとして盛り上がったため、嫌味な感じはしなかったのですが。

「思っていた人とはちょっと違ったのかな?」

A子さんはきゅうに肩のコリを感じ始めました。

 

 

(その三につづく)

「ホステスハラスメント」その一:セクハラ無自覚の男性

女性のお尻を触ったり、胸にさわったり、猥談をしたり、あからさまにホテルに誘ったりすることがセクハラであり、女性に嫌悪感を与えるという事実は、かなり多くの男性にもご理解いただいているのではないでしょうか。

 

しかし残念ながら、「ここまでしか分からない」という男性がとても多いのが日本社会の現状です。

あと一歩、深く考えてみてください。

あと一歩、踏み込んで理解していただかなければ、日本の男女共同参画は遅々として進みません。昔ながらの男権主義社会のなかで優秀な女性が萎縮し、真の実力を発揮できず、また男女平等指数も世界で一〇〇位以降と低順位のままではないでしょうか。

下品な性的言動のみならず、「女性性の鋳型押し付け」そのものに、セクハラNGオーラを感じていただかないと、女性が人間らしく働き、生きられる社会は一向に実現しないのです。

 

ここにとある男性がいます。

H部長という方は、セクシュアルハラスメントの加害者でありながら、ご本人にはまったくその自覚がありません。しかし彼は、「無自覚セクハラ総合デパート」のような男性です。

そこで彼の振る舞いや言動を通して、無自覚に女性を不快させるセクシュアルハラスメント具体例を、いくつかご紹介したいと思います。

どの場面でどのようなセクシュアルハラスメントが発生しているのか。まるで酸化油のように古く凝り固まってしまった男性意識と、女性サイドの不快感情のズレを、この実例から学んでいただけましたら幸いです。

(その二につづく)

高畑容疑者「強姦」の論点をズラす、リポーターバッシング

性犯罪をとりあげるときに、なぜか「女性の人権蹂躙」や「被害者の精神的被害」という事実から目を背け、微妙に論点をずらして別次元で語られることがよくあります。

論点をズラすのは、「男性性をいじられたくない」からでしょうか。それとも「男の性欲は自然の摂理なんだから仕方ないだろう」と、性支配を正当化したい気持ちが、どこかにあるからでしょうか。

しかしさすがに、今回の事件で正当化できる部分はどこにもなく、その反動で、論点は奇妙なところへグラインドしております。

 

高畑祐太容疑者は、ビジネスホテル従業員の女性への強姦致傷の疑いで逮捕され、それをめぐる記者会見で、フジテレビのリポーターから、母親の淳子氏に対し、容疑者の「性癖」について質問が飛びました。
そのリポーターから淳子氏への質問内容が、「不快」だという視聴者の声が、複数寄せられたのです。

 

フジテレビ「グッディ!」のリポーター・大村正樹氏は、母親である淳子氏に対し、祐太容疑者の彼女の有無や、何歳のときに何人くらいの女性とつきあったか、また彼女を紹介されたことがあるかなど、息子のプライベートについていろいろと尋ねました。

淳子氏がこのような質問に答えていく中、大村氏は「性癖に関して、何か気付くところはありましたでしょうか?」「例えば、ちょっと性欲が強いんじゃないかとか、性的な嗜好がちょっとおかしいんじゃないかとか?」……との質問をぶつけたのです。
これについて、淳子氏は「なかった」と回答しました。

 

この報道を見た視聴者は、敏感に反応しました。
「母親にこんなことを聞くな!」「知っているわけがないだろう」「非常識」という、不快感情を述べた複数コメントがネット上で流出したのは、多くの方もご存じのことかと思います。

これらは一見、「マスコミが無関係である淳子氏を理不尽に攻撃するシーン」を、「正義を装う視聴者が糾弾する」という、けなげな淳子氏擁護……という体にも見えます。
しかし私からするとこれは、「強姦」の論点からズレ、奇妙に本質をぼやけさせる現象にも見えて、もどかしく思うのです。

 

たしかにこれが、マスコミ慣れしていない一般人ならばまた、事情も変わってくるでしょう。しかし少なくとも淳子氏も高畑容疑者も、公人とはいえないまでも、マスコミに顔を売り生計をたてている俳優業です。
しかも高畑容疑者は、「彼女と最中のところに母親が来て…」など、バラエティでは「母親込み性的エピソード」を売りにして、笑いをとっていた背景もあります。外部者が母親と息子をセットとしてとらえ、詳細な質問をすることは不可避といえないでしょうか。

 

大村リポーターは、過去に無神経な取材でたびたび話題になっています。
しかし今回においては、取材必要範囲内のことを聞いたにすぎないと感じるのです。
余罪も疑われている高畑容疑者の普段の動向を探るべく、身内だからこそ知り得た情報について収集を試みた。それはリポーターならば当然といえる仕事ではないでしょうか。

日本新聞協会は、「事件報道には、犯罪の背景を掘り下げ、社会の不安を解消したり危険情報を社会ですみやかに共有して再発防止策を探ったりすることと併せ、……」と報道指針を掲げています。

それならばリポーターの質問は、上記目的に合致しているでしょう。
強姦致傷犯罪者の普段の性衝動を辿ることで、ひとつのパターンを共有し、類似犯罪を未然に防ぐに資する。
なにも「家で息子さんの自慰行為を見たことはありますか?」などの踏み込んだ質問を、興味本位でしたわけではないのですから。

 

 

悪いのは容疑者です。
いい歳をした大人が、性欲のコントロールすらできず、他者の性的自己決定権を自己中心的に侵害し、母親の立場や仕事関係者への迷惑を顧みず、ただ我欲を貪ることしか考えられなかった、容疑者自身に落ち度があります。

母親に罪はありませんが、この業界に口ききをした同業者の先輩として、また身内として、可能な限り情報提供し、つらいとは思いますが、マスコミの質問に答える責務があります。
それでも被害女性の負った「つらさ」に比べれば、針の先ほどといえるのではないでしょうか。

 

ネット上で「強姦という蛮行」で炎上するのではなく、ズレた論点にスライドして盛り上がるのは、焦点がぼやけるようで気持ちが悪いのです。

そろそろしっかりと、性犯罪というのは被害者の魂を殺す「スーパーヘビー級」の罪の重さであるということと、一方的な「性侵害」が微塵も正当化されないという事実に、真正面から向き合ってもらいたいものです。

美容院セクハラトークについて意識調査文書を送ったところ

女性を「人」としてではなく「性的存在」として軽んじる意識、そしてそれをためらわず口にするセクハラ言動について、日本は異常なほど無神経であると思います。

以前facebookですこしご紹介したのですが、美容院で受けたセクハラ言動につき、私は意識調査を兼ねて、会社に文書を送ってみました。
最初に「株式会社アース」のホームページからメールで送信したのですが、返信はありませんでした。そこで改めて「特定記録」にて本社宛に書面を送付したのですが、それをご紹介したいと思います。

なお一部個人情報等については省略・変更してあります。

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

株式会社アースホールディングス
代表取締役 國分利治様

前略 時下ますますご清栄の段、大慶に存じます。
私は、かねてから貴社を利用しております有馬と申します。本日は貴社接客サービスにつき、ぜひともご高察いただきたく、お願いの書面をお送りいたしました。

わたくしは平成二十七年三月二十七日、吉祥寺店にてパーマの予約をし、来店いたしました(会員番号0××0-0××016×××)。
指名をしなかったところ、М咲△二さんという男性が初めて担当につきました。
二~三時間の施術で少し打ち解けて話をしていたところ、気が緩んだのか、М咲さんは以下のような不適切な話題をふってきました。

「吉祥寺って、夜間になると女の子とあそべるお店とかが少ないじゃないですか。だから周りのヤツとかは結構、夜間の飲みだと新宿や渋谷に行く人が多かったりしますよ~」
彼の発言に対し、わたくしはその場でご注意申し上げました。

 

わたしは平素、労働団体の副代表幹事として適正な労働環境の整備に努めております。また公益財団法人 21世紀職業財団の「セクシュアルハラスメント・パワーハラスメント防止コンサルタント」の認定資格を有し、ハラスメントのない職場環境を推進するべく活動しております。
そのなかで一貫して頭を悩ませているのが、日本男性のセクシュアルハラスメントに対する意識の低さです。
このたび貴店にて、上不適切なセクシュアルハラスメント発言を受け、女性客を軽んじる貴店スタッフのマナー違反を、たいへん残念に思っております。
わたくしは顧客として来店したのですが、それにもかかわらず、このようなセクシュアルハラスメント発言を受けたことを遺憾に思うと同時に、なぜこのような発言が客に対してなされるに至ったのか、セクハラに対する貴店スタッフの認識と、恐れながら貴社の社内労務管理にもたいへん興味がございます。

さらには、顧客に対してためらわずにセクシュアルハラスメント発言がなさるのであれば、社内スタッフ間ではどのような会話が日々なされているのか、その点も憂慮しております。

貴店での出来事は、わたしのセクハラセミナーでサンプル事案として取り上げました。すると男女双方から意見がよせられましたので、セクハラ言動を行う男性側の意識データとして取り入れたいと考え至った次第です。
もちろん、貴社の企業名とスタッフ個人名を出すことはございませんので、ぜひ意識調査にご協力賜りたく存じます。

 

そもそもМ咲さんは、なぜわたしが彼の発言を不快に感じたのか、ご理解なさっていらっしゃらないようにお見受けいたしました。
そこで担当者М咲△二さんへのご質問です

①「なぜ客に対し、本件のようなセクシュアルハラスメント発言をしたのか」
②「なぜ女性であるわたくしが、本件発言を不快に感じたと考えるか」

簡潔で構いませんので、ご自身の頭で考え、ご自身の言葉で正直に語っていただけませんでしょうか。貴重な意見データとして収集させていただきます。

 

また、貴店の人事責任者等、管理監督者様にもご質問させてください。

①セクシュアルハラスメント防止の措置は平成十八年の改正で義務化されております。男女雇用均等法十一条の「職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置」の2「厚生労働大臣の定める指針」につき、貴社では具体的にどのような措置を講じていらっしゃいますでしょうか。
②「なぜ女性であるわたくしが、本件発言を不快に感じたと考えるのか」

こちらも簡潔で構いませんので、率直にお答え願います。貴重なデータとして参考にさせていただきます。

誠に勝手ではございますが、三月五日(土)までにご返信をいただけますでしょうか。
企業が健全に発展していくためには、顧客の立場に立った、マナーとコミュニケーションが非常に重要と考えます。突然のお便りで恐縮ではございますが、何卒、ご回答ご返信頂きますようお願い申し上げます。

草々

平成二十八年 二月◯◯日
東京都〇〇市(住所)
有馬珠子

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

上記内容をメールおよび手紙で送付したのだが、ひとことの謝罪もいただけず、「無視」という残念な結果に終わりました。

そして不思議なことに、三か月後には、セクハラ接客が行われたアース吉祥寺店の「閉店のお知らせ」ハガキが、五月に私の元に送られてきました。それはすべての顧客に送付される形式的な文面でしたが。

「平素よりHAIR&MAKE EARTHをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。この度2016年5月10日をもちまして吉祥寺店を閉店させて頂きました。長い間ご愛顧いただきました皆々様に心から厚く御礼申し上げます。
5月10日(火)以降のお問い合わせは、西荻窪店・三鷹店までお願い致します。今後とも HAIR & MAKE EARTH をよろしくお願い致します。」

 

( ……閉店? しかし会社全体が倒産したわけではないのに、なぜレスポンスがないのか? )
(「吉祥寺店は閉店したんだからもういいだろう」ということなのか……?)

―――謎は深まるばかりです。

 

簡潔にでも、謝罪文なり何らかのレスポンスをいただければ、美容院名は出さないつもりでいましたのだが、「無視」という不誠実な結果となったため、あえて企業名を出して周知・啓発することに致しました。

セクシュアルハラスメントをなくしていくためには、ハラッサーの心情や加害意識の大小を知り、その齟齬を埋める相互理解の教育を施すことが、とても重要だと考えます。しかしその機会すら絶たれ、たいへん遺憾に思う次第です。

企業にもさまざまなスタッフがいるので、全員に完璧な仕事を求めることはむずかしいかもしれません。しかし大切なのは、問題が起きたときの迅速かつ適正な対処ではないでしょうか。

少なくとも株式会社アースホールディングスは、女性客の不快感情と提言を顧みることなく、今後も運営を続けていかれるようです。

 

画像著作者: alant79

 

 

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有馬珠子の「働く人のハラスメント川柳&短歌」

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LGBT・セクシュアルマイノリティに対する的確な理解を

最近ようやく目にするようになったLGBTとは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランス)の総称です。

しかし、ひとくちにT(トランス)といっても、この違いがわかる方はどれほどいらっしゃるでしょうか。

①トランスジェンダー
②トランスセクシュアル
③トランスヴェスタイト

そしてこれらに加え、④「性指向」というものが別ジャンルとして絡み合い、一人の人間の「人格」となるということを、多くの方がまだ理解できていないように思います。
ジェンダーやセクシュアリティの問題というのは個人により強弱のグラデーションが異なりますし、極めてデリケートな内容なので説明がむずかしいのですが、個人の尊厳を語るうえで外せない課題ですから、一度はしっかりと言及しておく必要があるでしょう。

 

まず導入として、「トランスジェンダー」から説明します。
「性同一性障害」という言葉がポピュラーになったので、「これならわかる」、という方が増えたのではないでしょうか。トランスジェンダーとは、生まれ持った体の性別と心の性別が異なる状態です。「障害」という単語は差別的だという意見も多く聞きます。

そして次が「トランスセクシュアル」ですが、これは生まれ持った身体の性別と、性自認が異なる状態です。
自分の体の性別に違和感を覚え、「男の体を手術して女に変えたい」「女の体を手術して男に変えたい」と、ホルモン注射を打ったり、実際に手術したりして身体を改造するケースのことです。

次にトランスヴェスタイトであるが、これはいわゆる「女装」「男装」パターン。「手術して体を変えることまではしなくてよいが、異性の装いはしたい」という異性装のケースです。

 

わかりやすい例を挙げてみましょう。
まず、マツコ・デラックスさんは、どのカテゴリーにいらっしゃるかおわかりでしょうか。

マツコさんは、性自認が女性の「M(男)T(トランス→)F(女)のトランスジェンダー」であり、化粧も女装もなさっているので同時に「トランスヴェスタイト」でありますが、手術はしておらず「トランスセクシュアル」ではない。もしかしたら「トランスセクシュアル」願望はあるのかもしれませんが、そこは不明なので、現時点での判断をさせていただきます。

次に、はるな愛さんはどうでしょうか。彼女は「MTFのトランスジェンダー」であり、かわいらしい装いを好むことから「トランスヴェスタイト」でもあり、手術もなさっているので「トランスセクシュアル」でもあることがわかります。

ではクリス松村さんは?
クリスさんは「MTFのトランスジェンダー」のようですが、女装はしないので「トランスヴェスタイト」ではなく、身体も手術していないので「トランスセクシュアル」でもない。

 

ここまでは、「ふんふん、なるほど。納得」と思われる方も多いのではないでしょうか。
しかしジェンダーの問題というのは、それだけで終了する単純なものではないようです。
この類型の先にある、「性指向」の問題が入り込みます。
その絡みが複雑多岐ゆえに、そこから先がまったくというほど理解されていないのが現状ではないでしょうか。

T(トランス)の問題と「性指向」の問題は、別カテゴリーに存在します。それゆえに混乱がおき、理解がすすまないようです。

 

先ほど例にあげたマツコ・デラックスさん、はるな愛さん、クリス松村さんは、三名とも「トランスジェンダー」であり、恋愛対象となる性指向が「男性」であるからこそ、世間から見たときに、「ああ、ゲイのパターンね、オネエのパターンね」と、ひと通りの理解が得られるのだと思います。

しかし、「MTFのトランスジェンダー」だからといって、性指向が必ずしも男性に向くと限らないことは、まだ一般人の感覚としては受け入れられていないと感じます。

 

たとえば、ここにある高校二年生の男子がいると仮定します。

彼は「MFTのトランスジェンダー」であり、性自認は女性です。
そのため、男子の制服を着用し、通学すること自体をとても苦痛に感じています。毎日男子トイレを使わなければならないことにも、耐え難いストレスを感じています。
彼は、身体を手術したいとまでは思っていませんが、「女子のスカートはきたいなあ」「お化粧して髪を伸ばして巻いてみたいなあ」と感じ、毎日うらやましい気持ちで女子を眺めています。

 

しかし、彼の恋愛対象は女性です。男性ではないのです。
トランスジェンダーが必ず同性を好きになるわけではないのです。ですから、彼は同じクラスの女子と両想いになり、付き合い始めました。

高校を卒業し、晴れて制服のなくなった彼は、ようやく本来の自分を表現できるようになりました。化粧し女性の服を着て、髪をのばしネイルアートを施し、ヒールをはいて大学に通っています。もともと細身の体系だったため、どこから見ても女性です。

ところが、高校のときに付き合い始めた彼女とは、まだ交際が続いているのです。交際相手の女性は、彼のトランスに一定の理解を示してくれています。ですから二人にとっては楽しいデートも、はたから見れば、女友達同士が仲良くショッピングしているようにしか見えません。
しかし、ふたりの間には依然として恋愛感情があるのです。

 

これを「トランスジェンダーレズビアン」といいます。
身体は男ゆえに「女性の気持ち」を持つ「トランスジェンダー」であるが、性指向は女性に向いているため、結果的に心の部分はレズビアン状態であるというパターンです。

このケースでいうなら、彼は女装したまま女性として社会生活を送りながら、結婚して子供を設け、形式的に「父親」として家庭を築くことも可能なのです。

ちなみに「トランスジェンダーゲイ」や「トランスジェンダーバイセクシュアル」もいるので、本当にトランスと性指向は複雑で、グレーゾーンが限りなく広いといえます。

 

先日、女装して授業をする東大教授の安冨歩(あゆむ)教授の話が記事になりました。
安冨教授は、ある時期から急に女性性を自認して、女装をはじめたといいます。以前の彼の写真を見ると、髭の濃い、見るからに男性然とした男性です。
安富氏が女装に目覚めたきっかけは、「女性もののパンツ(スラックス)をはいてみたら、妙にしっくりして安心した」ことだといいます。ご本人によると、それをきっかけに自分の心が女性であるというトランスジェンダー認識にたどりつき、トランスヴェスタイトとして、女装することで生きやすくなった、ということです。

さらには、「今までも女友達のほうが多かった」「女性の輪の中にいる方が落ち着く」など、トランスジェンダーだと認識すると、自分でも腑に落ちることがぞくぞくと出てきたそうなのです。

しかし、安富教授の場合も、性指向―――恋愛対象は女性なのです。二度の結婚相手も女性、さらに現在のパートナーも女性であるというから、まさに「トランスジェンダーレズビアン」の典型パターンといえるでしょう。

 

ジェンダー、セクシュアル、性指向の問題というのは、その人がその人らしく生きるための根幹となる、まさに人間としての尊厳にかかわる核心的部分であり、個人の精神的自由に直結する人権問題でもあります。
決して色めがねで見ることなく、各自が正確な知識と理解を得るよう、努力する姿勢が望まれます。

学校や会社の制服、名刺、トイレ使用、着替えロッカー、スパ銭湯等の公共施設、ブライダル業界での対応、相続、戸籍、同性婚―――。

この先進展してゆくであろう教育機関や、職場環境配慮や、社会法整備についても、個人の心情にきめ細やかく配慮した、真摯な姿勢で向き合いたいと思うのです。

 

 

 

(有馬珠子のあめぶろ)
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