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京王電鉄車内吊りセクハラ広告への質問と、いただいた回答

【京王電鉄さまの車内吊りのセクハラ広告へ、質問してみました】

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京王電鉄車内に掲示されております車内吊り広告につき、ご連絡差し上げました。

平成30年5月7~13日、車内にて「プレイボーイ」(大原優乃という名前の表紙)の車内吊り水着グラビア広告を目にし、とても不快に感じています。

私は、男女が乗車する共有スペースにおいて、女性が性的シンボルとされる記事や画像が堂々と掲示されることを、以前から疑問を感じていました。

公共の共有スペースで、女性の水着画像が掲示されることに違和感と嫌悪感を覚えますし、他国では見当たらない光景です。女性を性的存在として当然に扱うことは、大人が不愉快であるばかりでなく、子供達の生育環境としても不適切ですし、なにより成長過程における子供達の男女平等意識にも悪影響を与えると危惧しております。

2020年の東京オリンピックに向け、男女平等推進国家として恥ずかしくない電車内環境を整備してくださいますよう、切にお願い申し上げます。

 

ちなみに公益財団法人日本鉄道広告協会(JAFRA)では、掲載広告につき「基準一覧」の「鉄道広告掲出基準」にて、下記の制定があります。

 

1.掲出に当たっての判断基準

(1)鉄道利用者に不快感や、過激な性表現などで嫌悪感を与えたり、青少年の健全な育成を妨げるおそれのないものであること。

(6)事実に反する誇大な表現や、誤った予断をもたせる表現などで、鉄道利用者に不利益を与えるおそれのないものであること。

どうか上記JAFRA制定が遵守されるよう、ご配慮いただくことを希望します。

 

ちなみに同様のセクシュアルハラスメントが、企業においてはどのように扱われているのかを付記させていただきます。

厚生労働省の定める労災の「心理的負荷による精神障害の認定基準」、業務による心理的負荷評価表(別表1)特別な出来事以外の「具体的出来事」の表では、心理的負荷弱にあたるものとして、二種類のセクシュアルハラスメントが例示列挙されています。

それは、

・「〇〇ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされた場合

・職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示された場合

の二点です。

これらから、少なくとも本件水着姿の広告掲示は、電車を利用する不特定多数の女性乗客に、厚生労働省認定基準レベルでの性的心理的負荷を与え、健康被害を引き起こす蓋然性が内在し、誘発している危険性が高いのです。

上記も斟酌のうえ、よろしければ、本件広告掲載決定に至るまでのフロー、基準を審査する決定権者の有無、そしてこのたびのわたくしの利用者意見がどのように処理され、今後生かされるのか等、ご教示いただけましたら幸いです。

 

共用スペースでのセクシュアルハラスメント広告につきましては、関心をお持ちの方が多数おられるようですので、ご回答を頂戴できました際には、ぜひ他団体様とも共有させていただきたく存じます。

誠に恐縮ではございますが、一度、5月31日(木)までに進捗状況をご返信いただけますでしょうか。何卒よろしくお願い申し上げます。

 

【京王電鉄さまのご回答】
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有馬 様

平素から京王をご利用いただきまして誠にありがとうございます。
はじめに、この度は車内広告でご不快な思いをおかけしまして申し訳ございません。
鉄道施設における広告は、多くのお客さまがご利用になる駅構内や電車内での広告掲出であるため、消費者保護・青少年保護の観点から問題が無いか、誇大広告や不当表示がないかなど、一定の基準を設けて掲出の可否を審査しており、場合によっては掲出を断っています。
弊社を含めた関東の鉄道事業者間でも審査基準について定期的に議論し、情報共有を行って参りますので、ご容赦賜りますようお願い申し上げます。
今回、お客さまより頂いた貴重なご意見を参考に、今後もより快適な車内環境作りに努めて参りますので、ご容赦賜りますようお願い申し上げます。

2018年5月16日(2018-05323)

このメールは京王グループHP「お客様の声」からの回答です。
回答へのお問い合わせは下記へお願いいたします。
京王電鉄株式会社京王お客さまセンター「お客様の声」担当
電話:042-357-6161
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利用者の問いと要請に対し明言を避けた、要領を得ないぼやっとした回答、というのが私の印象です。
それでも回答すらいただけなかった西武鉄道さまよりは、まだ良心的かもしれません。

しかし各会社のスタンスは確認できました。
この件に関しては元より、これで完了するとは考えておりませんでしたので、東京オリンピックをひとつの目安として、個人ではなく、枠を広げて進めていく手段を検討いたします。

日本の鉄道は、時間の正確さ、運行の安全、清潔さともに世界に誇れる素晴らしい財産です。しかしいかんせん、女性性尊厳を軽視する「ジャポルノ」日本文化をあまりに素直に取り入れ、この意識分野では完全に世界から切り離され、ガラパゴス諸島化しています。
この「残念」を排除し、世界最高水準の交通機関としての地位を、真に確立していただきたいと望む次第です。

イスラム教の預言者ムハンマドは「超・猫好き男子」

■元祖・猫好き男子 ムハンマド

ご存じの方も多いかと思いますが、イスラム教では猫をとても大切にします。
なぜならイスラム教の預言者ムハンマド(571年~632年)が、「超・猫好き男子」で、たいそう猫をかわいがったからです。

日本の猫好きといえば、平安時代の宇多天皇(887年~897年)が有名です。彼の書いた『寛平御記(かんぴょうぎょき)』は、自分の飼っている黒猫への熱い想い(と自慢)を綴った「現代版猫ブログ」として名高いですが、それよりも約300年早く、預言者ムハンマドの猫好きは知られていました。

時代は変われど、国は変われど、いつの世も猫好きはいる・・・・・・そう、必ずいる・・・・・・・・・といったところでしょう。

(参考記事:寛平御記 – くるねこ大和

 

ちなみに猫というのは、大声を出す人、乱暴で落ち着きのない人、下品な人、粗野な人、支配的な人、無神経な人、ズケズケと個に踏み込んでくる人、権威に阿る俗人などを、本能的に嫌います。
「あの人さぁ、ちょっとアレよね・・・」と、職場で女子社員にけむたがられている上司タイプは、おそらく猫とは相容れないでしょう。

預言者ムハンマドは、いつも物静かに微笑み、語り、母親という存在を尊敬し、女性の尊厳や意見を大切にし、思慮深く耳を傾け、一人の時間も好きで洞窟にこもり、瞑想し、酒に酔って騒ぐ不品行を嫌い、不正を嫌い、下品な言動一切を嫌う人物でしたので、猫とは相思相愛になれる、穏やかでデリケートな性質を備えた男性だったのではないでしょうか。

 

猫は、常に自分の身体をなめてきれいにする清潔さからも、追従しない独立心からも、ムハンマドの寵愛を受けたことからも、「真のペット」としてイスラム教徒に広く愛されてきました。

実際にイスラム圏を旅すると、猫がそこらじゅうにボトボトと落ちて、のんびり平和にくつろいでいます。それはもう伸びっぷりがよく、カフェでも道ばたでも、液体のように長々と伸びてリラックスしています。

モスクにも猫が悠々と入り込み、礼拝中のムスリムにスリスリと身体をこすりつけている光景をよく目にします。しかし皆追い払うでもなく、そのまま礼拝を続けていました。
外猫への餌やりにも目くじらをたてる日本とは違い、イスラム圏の懐の広さを感じます。

(参考記事:「カラパイア」~猫は全神説。イスラム教のモスクに現れ聖典を読む指導者にモフを要求。あげく一番高い位置に鎮座する~

 

■預言者ムハンマドの猫好きエピソード

預言者ムハンマドの猫好き話は、『クルアーン』ではなく、預言者の言行録『ハディース』に多く記録されています。
「猫への愛は信仰の一側面である」と言いきり、猫を迫害することや殺すことを禁じていました。
猫を餓死させた女性に対しては、さすがの温厚なムハンマドも怒り心頭。「この女性は地獄に落ちる(怒)」と、厳しく審判をくだしました。

ムハンマド一家では、人と猫が同じ皿から食事することも厭いませんでした。「うちもそんなもんだな」という猫飼いさんは、結構多いのではないでしょうか。「猫好きあるある」です。

 

また預言者ムハンマドは、可愛がっていた愛猫ムエザが礼拝服の上で寝ていたとき、気持ちよく寝ているのを起こすのがかわいそうで、袖を切り落として袖なしの服で礼拝に出かけたと伝えられています。ムハンマドが帰宅したとき、ムエザは感謝の意を示し、三度おじぎをしました。

このエピソードは、イスラム教における「慈悲」という観念とむすびつけて語られていますが、スヤスヤ寝ている猫を起こしがたいのは、預言者も一般人もおなじということでしょう。親近感を覚える逸話です。

ちなみに額に「M」模様のあるキジネコがいますが、それはイスラム教では、ムハンマドの指が触れたときに現れた「ムハンマドのM印」だと言われています。

 

■じつは犬にも優しかったり

イスラム教で犬は不浄、という概念があります。

「犬と同じ皿を使ったときは、その皿を7回は洗うべき」など、猫の扱いと比べるとずいぶん手厳しいですが、それは当時死者が多く出た狂犬病を避けるためという理由からで、じつは預言者ムハンマドは、犬に対しても慈愛をもって接していました。

『ハディース』には次のようなエピソードが登場します。

 

『アブー・フライラ(ムハンマドの教友)によると、神の使徒は語った。或る男が歩いているとき、烈しい渇きを感じたので井戸に下りて行って水を飲み、出てくると、そこに犬が居て渇きのあまり湿った土を噛んでいた。そこで、男は、この犬は自分が苦しんだような渇きに苦しんでいるに違いないと思って、また井戸に下りて行き、靴に水を満たし口にくわえて上がって来て犬に飲ませた。アッラーはその行いを嘉し、彼の過ちを赦した」と。そこで人々が神の使徒に「私達は動物にしてやった良い行いのために報いを与えられるでしょうか」と尋ねたとき、彼は「どの動物にした行いに対しても報いを受ける」と答えた。』

 

喉が渇くあまり湿った土をなめている犬を見て、かわいそうに思ったアブー・フライラは、井戸に降りて自分の靴に水を汲み、犬に飲ませてあげた。それを聞いた預言者ムハンマドは「よい行いをした」と讃えた・・・・・・という、なんだか涙の出るようなほっこりエピソードです。

最近、イスラム教徒のドライバーが、「犬は不浄だから盲導犬はアウト」として、盲導犬を連れた客の乗車拒否をしたケースが問題となりました。
形式や時代背景にとらわれ、思いやりや互助の精神といった、本来の信仰趣旨を見失うことのないよう、お願いしたいものです。

 

■預言者ムハンマドの猫友

ちなみに、犬に水をあげたこのアブー・フライラという男性、預言者ムハンマドの教友でもあり、同時に「猫友」でもありました。つねに猫をかわいがり、子猫をたくさんはべらせ世話していた人物です。

「アブー・フライラ」というのは本名ではなく、あだ名です。
「アブー(Abu)」は「お父さん」という意味で、「フライラ」というのは「猫(hirratun)」をかわいらしくスラング表現にした単語です。

直訳で「子猫のお父さん」なのですが、ニュアンスで言えば、「猫おばさん」ならぬ、「にゃんこオヤジ」といった感じでしょうか。その「にゃんこオヤジ」というあだ名が、後生まで『ハディース』に愛称として残ってしまったという顛末です。
本人としても想定外のことだったでしょう。

 

イスラム教では、動物に対して慈愛をもって接することは極めて自然な行動であり、シリアのダマスカスには、市民の寄付によって猫の病院、年老いた猫の養老院が設置されています。

野生を備える猫までもが警戒心を持たず、のびのびと暮らし天寿を全うできる社会。
これこそ平和の象徴ではないでしょうか。

弱き存在や、小さき命の末端にまで愛を注ぐことが尊ばれる文化は、ぜひ日本にも浸透してほしいと、昨今の殺伐とした記事を目にするたび感じてしまうのです。

(2月22日執筆:猫の日記念記事)

 

(サイト内類似記事:イスラム教の預言者ムハンマドは、元祖「イクメン・カジメン」

 

#MeTooムーブメントに思うこと~発信のその先をどうするか~

世界中で#MeTooのムーブメントが活発化しています。

このムーブメントにより女性がセクハラ被害を告発しやすい土壌が作られ、加害者側には「下手な言動をしたらマズイ」という抑止力が生まれます。私もこの流れには大いに賛成し、応援しています。

私は2016年に書いた「男はまだわかってない。人としての親切を女性性として消費される不快さ」の過去記事のなかで、すでに、「セクハラを下火にしていくためには、SNSでの情報発信、情報共有が有効」であると触れています。

その一方で様々思うこともありますので、改めて考えをまとめてみました。

 

自分がどこまでの決着を望むのか~法的解決の重要性も意識する~

果たしていいふらして終わりなのか。

はあちゅうさんのように著名人からの告発ならば、話題性もありカウンターアタックになるけれど、一般人の場合はいかがでしょうか。加害者名が明らかにされたところで、心にもない「ごめんなさい」を口先だけ言って終わり、というケースも多いだろうというのが、私の感想です。

もちろん#MeTooの流れは大いに賛成です。そのうえで私が伝えたいのは、この流れをきっかけとしても、どこを着地点にするのか、自分で決める自由は与えられているということです。選択肢は無数にあるのです。

 

実際に今も、さまざまな方法で解決に取り組んでいる方はいらっしゃいます。訴訟や労働審判、あっせん、労災申請、団体交渉やADRなど、行政措置や法的措置を含め、手段は多種多様に存在します。

#MeTooで終わりにしたくないと望むのであれば、弁護士に依頼するなり、それが金銭的に苦しかったら法テラスでローンを組むなり、労働局であっせん申請するなり、労働審判から切り込むなり、本人訴訟追行するなり、その先の選択肢はいくらでもあることを知ってください。

私がしたように、弁護士をつけない本人訴訟を推奨するわけではありませんが、法的措置の重要性も、同時に意識していただきたいと思います。信頼できる弁護士さんもいるということが、今の私ならばわかります。

 

判例の力というのは、やはり大きいです。判例が積み重なり、世の中の常識を変えてきました。判例法主義・不文法主義の英米法の「先例拘束理論」とまではいきませんが、先例に基づいて裁判がおこなわれてきたことは事実です。

第一回セクハラ裁判の勝訴は1992年。この初回福岡セクハラ訴訟がなければ、今以上に、あるいは今も、職場における性的発言等による環境型セクシュアルハラスメントは放置されていたでしょう。私の勝訴も、先人達の努力と実績なければあり得なかったものと表敬し、感謝しています。

 

なぜその先を意識するのか~セクハラ発生の抑止力~

なぜこのような話をするのかといえば、一般にセクハラ発生を未然に防ぐには、ふたつの方法があると思うからです。

①精神的制裁(社会的制裁)
 加害を未然に防ぐためのストッパーは、「恥」と「信用失墜」です。
#MeTooは、この意識をじょうずに共有し、拡散することでセクハラを律する風潮を作り出し、抑止力を拡大させています。やはり「セクハラ加害者」というレッテルは嫌なものなのでしょう。悪行を暴き、ハラッサーの羞恥心を呼び起こして、未来においてもセクハラ加害をおこさせない土壌を作り出していくというのは、とても有効です。

②金銭的制裁
 しかし残念ながら、「恥」などどうでもよいという、厚顔無恥な人も存在します。女性からのクレームをむしろ「雑音」程度にしかとらえていない男性は、そこら中に生息しています。だからこそ、「慰謝料」や「降格による減俸」などの金銭的ペナルティーを課すことが必要になってきます。
#MeTooムーブメントでは、金銭解決に発展させるか否か、ここが判断の分かれ道となってくるでしょう。

 

被害の程度によっては、お金をもらうことに抵抗があるという女性も、いらっしゃるのではないでしょうか。
「被害感情を金で解決できるなんて思わないで欲しい」
「金の問題じゃない」。

その気持ちはよくわかります。

私自身も、金が欲しかったわけではありませんでした。とにかく自分の尊厳を取り戻すため、正当にリングの上でぶん殴り返すことで、怒りをきちんと昇華させたかった。だからこそ金銭的解決というのであれば、示談ではなく「勝ち取りたい」と思ったのです。

しかし示談という手段でも「制裁」にはなります。ですから金銭を得ることに罪悪感を抱かないでいただきたいのです。

それでもやはり受け取ることに抵抗があるのなら、訴訟以外、例えば示談や団体交渉などで、「世界の恵まれない女性サポート団体に慰謝料を振り込み、その入金書を送付してください」など、別の方法で金銭的制裁を加えることも可能かもしれません。ご自身が納得できる方法を、模索してみてください。

 

この流れで気をつけるべきこと1~各自の選択を尊重する~

最終的にどのような方法を選択するかは、個人に委ねるべきでしょう。

要はご本人が「どこまでを望むか」です。#MeTooで発信して不特定多数の人に読まれて、それで自分が腑に落ちて、楽になり次のステップに進めるのならば、それはひとつの解決方法だと思います。
大切なのは他者のやり方を尊重し、応援する姿勢です。それぞれを認めることの重要性は忘れないでいただきたいと思います。

 

そのように考えるのも、セクシュアルハラスメントや男女共同参画の活動に少し足を踏み入れてみると、ある事実に気づきます。それはひとつに、同性から発せられる負の感情です。これは特定の業界に限らないことですが、他者のやり方を否定し、非難してくる人というのは、どこの世界にも存在します。せっかくの#MeTooムーブメントが、そのような批判に潰されないでほしい、というが私の願いです。

これは私の実感ですが、「セクハラを本人訴訟で追行して控訴審で逆転勝訴した」というと、さぞや同様の活動をしている方からは、「よくやった!」とエールを送られるかといえば、決してそんなことはありません。ごく一部からではありますが、むしろ排他的な態度を示されることもあります。

例えば強姦や準強姦レベルの被害、あるいはそれに準ずるセクハラ被害を受けた女性をみんなで一丸となって支援し、勝利をつかみ取ったという事案ならば、共感し、あたたかく迎え入れてくれるのかもしれません。

しかし、私のように「自助力で不幸を軽減させた」女性に対して、ときに一部の同性は驚くほど冷淡です。類似の活動をしているからこそ、でしょうか。嫌悪感情を暗に匂わせ、陰で方法を否定し、距離を置こうとする人にもごく稀に巡り会うのです。

なぜならば、類似の活動をする中には、自分もつらい被害に遭い、しかしそれを直接相手にぶつけることができず、そのため他者の支援にまわり活動することで自身を投影したり、別の切り口から女性の権利保護をおこない、世の中を改善させることでマイナス経験を還元していこうとする意思をお持ちの方もいます。

その人達からすれば、私の被害などはひどく軽く見え、しかも「自助力で不幸を軽減させた」という事実はどこか鼻につき、スタンドプレーを認めたくないという、嫉妬にも似た抵抗力が生まれるようなのです。

 

「不幸を共有しなくなった」、あるいは「自分の力だけでダイレクトに敵に立ち向かった」私などは、「ずるい」と思えるのかもしれません。

 

ジャンルは違いますが、ロバート・キヨサキ氏は『金持ち父さん貧乏父さん』(筑摩書房)の中で、次のように述べています。

『~つまり、自分はやってみたことがないくせに、やっている人に向かって「そんなことをすべきではない」理由を並べ立てるというわけだ。~(196ページ)』

 

個であれ集であれ、ひとつひとつの取り組みが、また、自分の行っているものとは違うカラーの活動が、結果的に全体としての女性地位をあげているという意識共有なくして、前進もありえないのではないでしょうか。しかしそこが、性的被害を撲滅させていくムーブメントのむずかしさでもあるとも感じるのです。

#MeToo渦中にある今だからこそ、女性同士のいたわりと共感と、個々のやり方を尊重する意識を大切にしたいと思います。

 

この流れで気をつけるべきこと2~負のスパイラルを断ち切る~

一方、なぜそういった「歪み」が生じるのか、その感情と背景にも改めて目を向ける必要があります。

日本で#MeTooの火付け役となったはあちゅうさんも、BuzzFeedインタビュー記事の中でご自身のゆがみについてこのように語っていました。

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「セクハラやパワハラ被害のニュースを見ても『あれくらいで告発していいんだ…私はもっと我慢したのに…私のほうがひどいことをされていたのに…』と、本来手をとってそういうものに立ち向かっていかなければならない被害者仲間を疎ましく思ってしまうほどに心が歪んでしまっていました」

「けれど、立ち向かわなければいけない先は、加害者であり、また、その先にあるそういうものを許容している社会です。私は自分の経験を話すことで、他の人の被害を受け入れ、みんなで、こういった理不尽と戦いたいと思っています」

「これからはちゃんとした視点で世の中が見られるようになると思います。自分が我慢すればいいと思うと、他の人の苦しさも受け入れられなくなってしまいます。『私は我慢していたのだから、みんなも我慢すればいいのに』と私のように心が歪んでしまう前に、どうか、身近な誰かに相談してみてください」

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はあちゅうさんに関しては、ご本人にもセクハラ加害発言があったなど、いろいろと取り沙汰されていますが、少なくとも上記インタビューに関しては、自身の内面とまっすぐに向き合う、真摯な姿勢が感じられます。

「私は苦しんだのだから、他の女性もひどい目にあえばいい」

そう思わざるを得ないほど、性的な攻撃というのは、深く個人を傷つけ、歪ませます。

そしてその歪みが、彼女の場合は、自分がされたように、異性への性的攻撃という形で噴出し、「性的強弱マウンティングのコミュニティー」を受け入れて、自分もそのように振る舞うことで、自分の受けた傷を『この世界では仕方のないもの』と正当化しようとする、自己保護の心理が働いたのではないかと感じます。

自身のメンタル保持のために弱者的立場を転嫁していくというのは、決して許されることではありませんが、人の弱さや、負のスパイラルという点で、ひとつ学習材料にする必要はあると思います。

 

多くの方に知っていただきたいのは、それほどまでに性的被害というのは直接的なケアがむずかしく、誰かに相談できるまでに相当のブランクを要する、という事実です。これを機に、改めてセクシュアルハラスメントが与える心理的負荷の重要性を認識していただきたいのです。

また同時に、そのように女性の傷をたやすく生み出してしまう、「女性をモノ化し、不遜に扱い、多数獲得することが強者の証であるという男性本位のマッチョ社会」の社会構造そのものに疑問を抱き、覆していくことが不可欠です。

 

この流れで気をつけるべきこと3~かさぶたを剥がす時期は自分で決める~

#MeToonoの流れに乗って「えいっ」と告発できる人は、多いに賛成です。心から応援したいと思います。

しかし、傷の治癒時期というのは人それぞれであり、ケースバイケースでしょう。かさぶたが固まりかけていたところ、無理にはがして血を流すことがないよう、自分の心としっかり相談してみてください。

このチャンスに思い切って吐き出したい、「できるぞ」という人は、是非やってみることをお薦めします。その先どうすればよいか、今はわからないかもしれませんが、一歩踏み出すと次が見えてくる。そういうものです。何もかも最後まで見通せてからスタートを切るものではありません。私もそうでした。

 

もし仮に「#MeTooで吐き出してしまったけど、まだ早すぎたかも。やっぱりツライ・・・」と思う方がいるのなら、それはそれで後悔しないでいただきたいと思います。既に行動に起こしたということは、やはりそれが「時期」だったのでしょう。吐き出したものというのは、しょせん排泄物ですから、土に還るに任せましょう。

勇気を出して発信した行動を、誰が認めずとも、一女性として私は讃えエールを送りたいと思います。剥がしたかさぶたの傷がふさがるのは、最初に受けた傷より何倍も早いということを、これから知るはずです。

 

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平成30年2月2日(金)イベントのご案内
港区立男女共同参画センターリーブラ助成事業に参加します。
講師:勝部元気氏

 

過去記事一覧はこちらから。

あなたの周りに潜むマイルドストーカー ~PART6案外冷静な社内の人々

(つづき)その後も、堀之内X夫人からの電話攻撃は続いた。

最初こそ好奇心にわいた社内の人々だったが、溝口さんが阿修羅のごとく、自分はかん違いされた被害者にすぎないと主張すると、あっさりと興味を失い、個々の業務に戻っていった。

周囲が溝口さんと堀之内課長との不倫関係を信じなかったのには、ふたつ、理由があった。

ひとつには、やはり溝口さんの「キャラ」に負うところが大きい。普段からフェロモンを振りまく恋愛モード全開の女子社員とは違い、溝口さんと「不倫疑惑」は、あまりにそぐわなかったからである。

なんせ「プーチン大統領似女子・タモリ風味」である。色恋のうわさ話で周囲が盛り上がるには、いまひとつ恋愛キャラがたっていなかった。
また実際、堀之内課長と溝口さんが仲良くしているところなど誰も見ておらず、溝口さんの主張のほうがはるかに現実的で、信用性も高かったのだろう。

相手の堀之内課長も、目立たない地味なタイプらしく、周囲の好奇心を持続させるには役不足だった。

 

ふたつに、堀之内X夫人には前科があった。
前科といっても、実際に塀の中でお世話になったという類の前科ではない。「不倫誤解おさわがせ通報」の前科である。

入社間もない社員には知られていないことであったが、X夫人は数年前にも何度か、おなじことをやらかしていた。
それは営業の中堅社員が、溝口さんに教えてくれた事実である。

「そのときも誤解だっていうんで、ターゲットにされた女子社員が激怒してね。今は辞めてしまった人なんだけど。しかもその時期、彼女は結婚を控えていたから。もうたいへんよ。名誉毀損だ、出るところに出て話をつけるって、大騒ぎになって」

「その女性はなんで課長との仲を誤解されたんですか」

溝口さんは、自分とおなじ目にあった被害経緯に興味をもった。
営業の中堅社員は、首をひねりながら答えた。

「う~ん、たしかあのときは……。社内のお花見の写真に、たまたま堀之内課長と彼女が、一緒に写り込んでいたんじゃなかったかな。それを奥様が何かで見て、妄想がふくらんでっていうパターンじゃなかったかな」

 

はた迷惑なトラブルではあったが、誰も溝口さんと堀之内課長の関係を疑うものはなかった。そのため溝口さんが社内で肩身の狭い思いをすることはなく、むしろ「エキセントリックなできごとに巻き込まれてお気の毒」と、同情されるくらいであった。
人によっては妙なうわさで職場に居づらくなったり、会社を追われるケースもあることを考えると、この点において溝口さんは恵まれていたといえる。

「それにしたって、一回だけじゃなくて、何度も電話してきてるんでしょ? 会社側はなんで夫人を放置しておくわけ?」

私がたずねると、溝口さんは口の片側を微妙にゆがめて言った。

「X夫人はね、もともとはうちの会社の社員だったんだって。それも部長や副部長と同期入社の。堀之内課長と結婚して辞めるまでは、けっこうバリバリ働いていたらしいよ。まあ、上層部と顔見知りということもあって、いろいろ私たちが知らないことも知っているみたいだね。会社としてもそうそう強く出られないらしいよ」

顔見知りか。
それはいろいろとやりにくいだろう。
溝口さんは続けた。

「はっきりとはわからないんだけど、そもそもX夫人が奇行に走るようになったこと自体、本当に、大昔の課長の浮気が原因らしいんだよね。もう何十年も前みたいだけど。それをきっかけにして心が病んじゃったみたい」

「あらら。それはそれは……」

壊れるには壊れるなりの原因があったということか。同情すべき事情ではあるが、第三者の溝口さんには無関係だろう。

 

その後、X夫人からのタレコミ電話は続いたが、社員全員が事情を認知したため、X夫人は相手にされなかった。

「はいはい、ご指摘ありがとうございます。上の者にも申し伝えておきますので」

このようにあしらわれ、X夫人は影響力を失っていった。

軽くいなされてしまい溜飲が下がらないのか、ついにはただの無言電話をよこすようになった。そしてその事実に社員誰もが慣れっこになった。
電話に出て無言電話だと、「ああ、X夫人か」と思い、「もしもーし、ご用がないのであれば切りますよー」と電話を切り、各自が日常の仕事に戻っていった。

PART7につづく

PART1 PART2 PART3 PART4 PART5

あなたの周りに潜むマイルドストーカー ~PART5不倫疑惑

(つづき) 堀之内課長というのは、別部署の、ほとんど話したこともない上司だという。おなじフロアにデスクを置いてはいるものの、場所も離れているし、事務方の溝口さんとは特に仕事で絡むこともない。
ただひとつ類似点があるとすれば、自宅の最寄り駅がおなじということくらいだろうか。出勤途中、何度か駅で遭遇してあいさつをしたため、その事実を知っていた。

「上司とスーパーで会ったら嫌だなあ」
溝口さんはその程度に感じていた。

 

堀之内夫人に初めて遭遇した翌日、溝口さんはいつも通り出勤した。
午後の仕事が一段落する比較的暇な時間、溝口さんはなぜか直属の部長に呼び出された。会議室に呼び出しを受けるほどのミスを、仕事でした覚えはない。心当たりがあるとすれば、少し前にムームーを着て出勤して、「君はハワイにでも行くのかね」と、さりげなく部長に嫌みを言われたことくらいだった。

「ムームーはまずかったか」

舌打ちしながら会議室に入った溝口さんは、部長と副部長と堀之内課長が、苦い顔をして座っている姿が目にはいり、ぎょっとした。
「まあ、ちょっと座ってよ」

部長に促され、三名と対面する形で溝口さんは腰をおろした。たかがムームー出勤でこれほど厳重注意を受けるのだろうか。
部長は重い口をひらいた。

「これから噂になるとかわいそうだから、先に言っておくよ。今日、堀之内君の奥さん……おっと、奥さんという呼び方も今は何かに抵触するのかな? これは大丈夫? うーん、むずかしいね。とにかく堀之内君の妻君から電話があったんだ。とりあえず責任者を出せって。その、ご夫人がいうにはね、君と堀之内君が不倫関係にあるというんだ。一体、会社の管理監督はどうなっているのかと、ご立腹の電話だった」

溝口さんは、目の玉が飛び出るくらいおどろいた。

「はああ?!! 私と堀之内課長が?! 何ですか、それ!」

部長は制止するように手をかざし、言葉を続けた。
「いや、わかってるよ。誤解なんだろう。先に堀之内君に確認をとったから、こちらとしてもそれは理解しているよ」

衝撃的なタレコミのわりにはあっさりと誤解を認めているな、溝口さんはそう感じたという。

「ただ、ご夫人はかなり激高していてね。まだ誤解は解けていないようなんだ」
溝口さんは思い出して言った。

「そういえば、昨日、就業後に総合ロビーでその方にお会いしましたよ。私の名前を社内報で見て知っているとか何とかって。いきなり飛び出してきて、わけのわからないことをニコニコしながらまくしたてて。あれって、私と課長のことを誤解しての行動だったんですか?」

堀之内課長は、渋い顔をして下を向き、黙っている。

「わたし、堀之内課長ならまだ残っているから呼びましょうかって言ったんです。そうしたら、いいのよ、今日はあなたに会いにきただけですから、うふふふって笑いながら、風のように去っていきましたけど」

「ああ、もう接触されたんだね」
部長は眉間にしわをよせて言った。

溝口さんは堀之内課長にたずねた。
「はい。……あのー、課長、奥さまが、私との関係を誤解されるようなこと、何かお心当たりはあるんですか。たとえばほかの女性と私を間違えているとか」

堀之内課長は、「いや……」とつぶやき、下を向いたままだった。溝口さんはイラッとしてさらに問いただそうと身を乗り出したところ、今度は副部長が口を開いた。

「堀之内君と溝口さんは、最寄り駅もおなじだったね。もしかしたら、帰途が一緒になったところなどを目撃して、楽しそうな様子から、何か誤解したということもあり得る」

「いえ、朝、駅でお目にかかって、会釈くらいしたことはありますけど、帰りが一緒になって会話を交わしたなんてことは、一度もないですよ。二、三回、お見かけしたことはあるかもしれませんが。課長も私も、お互い気づかないフリというか、就業後にあえて話をすることはしませんし」

堀之内課長は押し黙っている。

(何とか言えよ! 誤解されるだろうが!)
溝口さんはイラつきながら言った。
「私にとっては、本当になにがなんだか、わけのわからない話です」

溝口さんは憤懣やるかたない様子でそう答えると、それをフォローするように部長がとりなした。

「まあまあ、会社としてはそれはじゅうぶん、承知しているから。溝口さんに落ち度はない。ただ、こういうことがあった以上、君も一応、気をつけてみてくれないか。いや、気をつけっていうのは、君を責めているんじゃないよ。溝口さんの身を案じてのことだよ。現に昨日は君に会いに来ているっていうからさ。相手の誤解が解けてない以上、またおなじようなことがあったら、なるべくご夫人を刺激せず、じょうずにやり過ごしてはくれないか」

溝口さんにとって腑に落ちない、謎だらけの面談はそれで終了した。

 

溝口さんが席にもどると、隣のデスクの同僚が目を白黒させながら小声で話しかけた。

「ちょっと、溝口さん! だいじょうぶ?! 今すごい電話があったよ。あなたの職場の溝口さんという女性は、うちの堀之内と不倫してますって。周囲のみなさまも社内の道徳と秩序が保たれるよう、気をつけてくださいませんか、お願いしますねって。たぶん、ほかの電話にもかかってる!」

溝口さんはうなだれてため息をついた。

「今まさに、そのことで呼び出されていたところだよ。本当に、何がなんだか。堀之内上司となんか、ほとんど口もきいたことないよ。見てればわかるでしょう」

「ま、そりゃあねえ。財力のあるイケメン上司とかならともかく。あんなくたびれたサエない上司と、間違えたって不倫になんかならないよねえ」

同僚は、好奇心の視線からあっさりと現実的視点にもどり、溝口さんの言葉に深くうなずいた。
PART6につづく

PART1 PART2 PART3 PART4

あなたの周りに潜むマイルドストーカー ~PART4それはある日、会社にかかってきた一本の電話からはじまった

(つづき)溝口さんの社会人生活も、はや一年経った。事務職の仕事にも少し慣れ、花見や納涼会など会社の行事にも参加し、丸の内のランチ事情にもくわしくなり、それなりに社会人生活を謳歌しているようだった。

だがしかし。

溝口さんほどの逸材が安穏とした社会人生活を送れるかといえば、そうは問屋が卸さない。トラブルの影は少しずつ近づいていたのだ。

 

ある日、溝口さんの会社に電話がかかってきた。溝口さんとおなじ事務職の、隣のデスクの女性がそれを取った。

「お待たせいたしました。〇✕会社でございます。溝口ですか? はい、おりますけれど。お電話おつなぎいたしますので少々お待ちください。……え? よろしいのですか。お電話いただきましたことお伝えいたしますので、よろしければお名前、」

そう問うたところで電話はブツリと切れた。同僚は受話器をもどしながら溝口さんに伝えた。

「なんかね、女性の方だった。そちらに溝口さんという人は働いてますかって。名前聞いたらすぐ切れちゃった」
「ふうん?」
本社の営業とやり取りすることもあったので、新人営業さんが何かを確認したかったのだろう、くらいに溝口さんは考えていた。

 

その日は残業もなく、業務を終えた溝口さんは定時にタイムカードを切った。
エレベーターを降り、セキュリティゲートを抜け、一階ビルの総合フロアロビーを横切ろうとしたそのとき。

「あら? 溝口さん? あなた、溝口さんよねえ!」

やけにハイテンションで明るい声の年配女性が、どこから現れたのか、溝口さんの正面に、湧いたかのように立ちはだかった。まったく知らない女性であった。

 

「いやだわ。まさか溝口さんにお会いできるなんて思ってなかったから。あら、ごめんなさいね。驚かなくていいですよ。いつも堀之内がお世話になっております。どうして溝口さんだとわかったかって? この前の会社の納・涼・会。溝口さんが朝顔の鉢にお水あげていたでしょう。それを社内報で見て、なんてやさしいお嬢さんなんだろうって、私、感激してしまって。堀之内もきっとそう思っているだろうって。ええ、ええ、私はそう思いますよ!」

女性はニコニコと笑いながら、ペラペラと早口で、ハイテンションマシンガントークを浴びせつづける。溝口さんは呆気にとられてその女性をながめた。

溝口さんは、その女性を最初に見たとき、うまく言葉に出来ない、ちぐはぐな印象を受けたという。普通の格好をしているのだが、どこかバランスが悪く、「何かが緩んでいる」というのだ。

きちんとした格好をしているように見えるが、どこかがだらしないというか、どこかつめが甘いというか、そこが妙に浮き彫りとなり、違和感を覚えた。

その日、ご夫人はシックなモノトーンのツーピースを着ていたが、上に羽織っていたのがなぜか毛玉だらけの安そうな小花のついた、黄色い毛糸のカーディガン。そして膝上ストッキングが片方、膝下までずり落ちていた。ところがバッグは高価そうなディオールという、全体的にアンバランスないでたちであったという。

 

「あの、どなたかと人違いされているのではありませんか?」
そう尋ねると、女性はたたみかけるように言った。

「いやだ、溝口さん、いいのよ! ごまかさなくて。私ちゃーんと、溝口さんのお顔とネームプレートは、社内報で拝見していますから。堀之内と一緒に映っていたお写真で」

それを聞いて、溝口さんは「ああ」と思った。先月会社で行われた納涼会の様子が社内報に掲載されたのだ。
ということは、この女性は。

「もしかして、堀之内課長の」

さきほどから堀之内、堀之内、と連呼しているのはそれ以外に思い当たらない。

「妻です」

堀之内X夫人は、薄い笑いを浮かべながらゆっくりとうなずいた。
PART5につづく

PART1 PART2 PART3

 

 

あなたの周りに潜むマイルドストーカー ~PART3溝口さんの就活

(つづき)大学時代、溝口さんも私も就活への意欲がまったくなく、「いまだ手つかず」の根なし草状態を、お互いムキになり競いあっていた。
しかし溝口さんは四回生の冬頃、さすがに「マズイ」と思ったのか、重い腰をあげた。

 

当時はまだ、個人がメールを所有する時代ではなかった。就職ための会社情報は大学の「就活ルーム」に張り出され、それ以外の募集については雑誌や新聞で調べていた。そこから募集企業にあたりをつけ、電話をかけて資料請求し、履歴書を送るなどして面接にこぎつけるのだ。

 

溝口さんは授業のない昼間に、自宅から会社に資料請求の電話をかけた。就活も終わりの時期だったが、内定を得ていない学生が空席のある企業に押し寄せているのか、電話はいつまでたってもつながらなかった。

時間をおいて何度かかけたが、それでもまったくつながらない。最初は緊張し、正座して電話をかけていた溝口さんだったが、「どうせしばらくは無理だな」と思い、やがて寝っ転がり、雑誌を見ながら、背中をボリボリとかき傍らのパンをかじり、ページを惰性でめくりつつ、適当にリダイヤルボタンを押しつづけた。

溝口さんがパンを飲み込もうとしたそのとき、不意に電話がつながった。
「はい、株式会社〇△でございます」

溝口さんは飲み込もうとしたパンをのどに詰まらせ、むせて咳き込んだ。

「グホッ、グホッ、……グ、グギュ……グホホッ、ゴボッ」

「だ、だいじょうぶですか?! どうされましたか?!」

「(ゴクン)だ、だいじょうぶです。(ハアハア)すみません、パンがのどに……」

「は? パン?」

「……………パン……が喉に、つまって……。いえあの、資料請求をお願いしたいのですが……」

 

資料をとりよせ、履歴書を送付したのち、溝口さんは面接を受けた。
神妙に扉を開け、面接官にていねいにおじぎをし、大学と名前を告げた。

「△△大学の、溝口阿佐美ともうします」

「ああ、資料請求のときにパン食べてた人ですよね」

「(溝口さん)……………………。」
「(面接官)…………………………………………。」

 

「いやあ、まいったよ。その後何を話しても、面接官たちの氷のような冷たい視線が、痛いのなんのって」

「うん、まあ。世間的にはそれを自業自得というんだよね」

そんな経緯で溝口さんは第一希望の企業にアッサリとすべり、その後どうにかこうにか、丸の内にある医療メーカーの子会社に就職を果たした。

溝口さんも私も僥倖をよろこび祝杯をあげたのだが、その会社こそが、やがて彼女を珍妙なできごとへと巻き込むステージだったのである。
PART4につづく

 

PART1 PART2

 

あなたの周りに潜むマイルドストーカーPART2 ~朝、某〇〇線を泳ぐ「おはよう君」

(つづき)溝口さんのポテンシャルを示すエピソードをひとつ、紹介しておこう。
当時彼女は、東京郊外の実家から都心の大学まで、某〇〇線で通学していた。電車内には、毎朝「おはよう君」が出没したという。

「おはよう君」は、小学校一~二年くらいの少年だ。詳細は不明だが、どうやら特殊学級に通っている少年ということらしい。

 

「おはよう君」は、両手をあわせて頭の前に掲げ、満員電車のなかを、「ぶ~~~~ん」と声を発しながら、手を尖らせてドリルのようにくねらせ、人混みをかき分けて突き進む。そして何両か進むうち、自分のなかでゴールとなる人物を決め、その人に「おはよう!」と言う。そしてその相手から「おはよう」と返されると、満足してその日は終了する。

おはようを言う相手は、気分により毎日違うらしいのだが、目立つ人物が、繰り返し「おはよう君」のゴールに設定されることもある。

 

ある日「おはよう君」は、素敵なターゲットを発見した。パンクバンドかメタルバンドをやっていそうな、鼻ピアス、ビス&トゲトゲつきの黒い革ジャン、顔にマリリン・マンソンもどきの化粧を施し、髪を逆立てた青年だ。

「おはよう君」は喜々として声をかけた。
「ぶ~~~ん、ぶ~~~ん……、おはよう!」

メタル青年は無視して携帯をいじる。
「おはよう君」は、めげずにあいさつを続ける。

「おはよう! おはよう! おはよう! おはよう! おはよう! おはよう! お・は・よ・う!」」

メタル青年は何度も向きを変えて顔をそむけるが、「おはよう君」はその都度、片足を軸にして、青年の真正面に、シュタッ!シュタッ!と機敏に切り込み、目線をあわせてあいさつを促す。
ついにメタル青年は根負けし、小声でつぶやいた。

「(チッ← 舌打ち)ぉっ…はょー……」
「(プ……………………ッ)」

周囲の乗客は、肩をフルフルと震わせ、必死で笑いをこらえていた。

 

目立つ外見が災いし、その後メタル青年は続けて「おはよう君」のゴールとされた。それが複数回続いた後、ある日彼は、根負けして地味な装いの好青年へと変身をとげた。

「あれ? この人こんな顔だったんだ。っていうくらい、地味なの。その辺のふっつーのコンビニバイトか大学生みたい。笑っちゃった。ほかにも気づいた人、いると思うんだよね」

溝口さんは口元の片側だけをゆがめ、シニカルに笑った。

メタル青年はそれ以降、「おはよう君」のターゲットにされることはなくなった。やはり、奇抜な格好が徒となり、ゴールに設定されていたのだ。
彼のメタル魂は、ひとりの少年にあいさつを求められるプレッシャーの前に、脆くも崩れ去った。

 

さて、毎朝メタル青年とおなじ車両に乗っていた溝口さんだが、目立つ装いの彼が消え、いよいよ「おはよう君」の次なる相手として、その存在を発見された。

「おはよう!」
「……おはよう」

あいさつを返せば済む話なので、溝口さんは返答してコミュニケーションをとった。どうせ今日限りだろう。溝口さんはそう考えていた。

しかし翌日から「おはよう君」は、毎日溝口さんをゴールとするようになった。メタル青年とは違い、派手な外見でなく、どの車両にでもひとりやふたり、必ず乗車していそうな平凡な装いの溝口さんを、「おはよう君」は確実に見つけ出す。
特定の乗客にそこまで固執するのは、「おはよう君」史上、メタル青年以外では初めてのことらしい。(見知らぬ乗客談)。

 

溝口さんは、ためしに車両を変えてみた。
ところがどの車両に乗っていても、「おはよう君」は必ず溝口さんを探し当てる。

「ぶ~~~ん、ぶ~~~~ん……、おはよう!」
「……うん、おはよう」

溝口さんはメタル青年に倣い、帽子をかぶったりめがねをかけたりなど、プチ変身をしてみた。しかし「おはよう君」は、そんなものにはだまされない。

 

メタル青年の場合は、その特異な外観から「おはよう君」の興味を引いたのであろうが、溝口さんの場合は、ラフレシアが放つ臭気のごとく、内からにじみ出るオーラゆえ「おはよう君」を惹きつけたのだ。そのため表面的な変身をしても無駄であった。

彼はおそらく、常人よりも純粋なアンテナをもつため、溝口さんの何らかの深さを見抜いたのだ。一般人のもつ外観的判断や打算や体裁というものから解放された、いわば「おはよう君」のピュアな感性が、溝口さんの秘めたるポテンシャルをキャッチしたのだろう。
PART3につづく

PART1

 

あなたの周りに潜むマイルドストーカーPART1 ~溝口さんの底知れぬポテンシャル

私の知る限り、溝口さんほど「エキセントリックな人々」から好かれる女性はいない。

溝口さんは、一見ごく普通の女性だ。中肉中背で、容姿もファッションも髪色も派手なところはない。医療系会社の事務職を毎日黙々と実直にこなしている、どこにでもいる堅実な会社員だ。

しかし彼女は、「少し変わった人」を引きつける素養というか、うちに秘めたる吸引力がものすごいのだ。

 

それはひとえに、溝口さんの本質的な「おもしろさ」にあるのだと思う。

ひとたび溝口さんのふところに入り込み、親しく会話を交わすとそれがわかる。彼女のエッジの効いた感性に「ウッ……」と、ハートを射貫かれることしばしば。この地味な人の、どこにこんな破壊力のあるギャグが潜んでいるのだろうと、顔文字のポカーンのように、本当に、ポカーンとさせられるのだ。

 

何の気なしにぼそっと話す内容の、その言葉選びや視点が秀逸で、クセになるおもしろさだ。饒舌なタイプではないのに、わずかな会話だけで、ただものではない感性に気づかされる。

いや、表面的な付き合いにとどまる一般の人々は、溝口さんのポテンシャルに気づいていないのかもしれない。溝口さんの面白さは、むかしから彼女を知る人や、ふところに飛び込んで親しくなった人、あるいは独特の嗅覚をもつ人にのみ認知されている。

 

彼女の独特の持ち味をどう例えたらよいのか。
長年思案してきたのだが、最近ようやく、よい答えに行き着いた。

「女版・タモリさん」だ。
わかるだろうか。あの感じである。

タモリさんも、外見的にはわりと地味で普通だ。しかし淡々とした話し口調のなかに、鋭い観察眼やニヒルな切り口が満載で、ふところが深く、そしてエキセントリックキャパシティーが広い。その器の大きさとおもしろさが、昔も今も、サブカル寄りのアーティストや知識人を惹きつけてやまない。

 

タモリさんがそうであるように、溝口さんの垂れ流すオーラは、他人の中のエキセントリックな血をざわつかせる。
普通人である私ですら、溝口さんを前にすると、自分のなかのサブカルの血がザワザワと騒ぎ出していることに気づき、「こ、こらっ、静まれ!」と、自らの体液を叱咤してしまうのだから。

一体、彼女の何かどう、「彼ら」の嗅覚を刺激するのだろうか。

おそらく「エキセントリックな人々」は、常人とは異なる高感度のアンテナを持っているからして、溝口さんと親しくならずとも、溝口さんの「おもしろさ」を匂いで敏感に嗅ぎ当てるのだ。彼女のエキセントリックキャパが広いことを本能で感知し、「この人になら自分が受け入れられる」と期待して、吸い寄せられてくるのではなかろうか。

 

しかし溝口さん本人は、自分が「エキセントリックキャッチャー」だという自覚はない。多くの「エキセントリックな人々」の心をざわつかせ、彼らを魅了しながらも、至って普通に生きているし、彼女自身は、穏やかに普通に生きていきたいと願っている。

しかし本人の意思とはうらはらに、溝口さんラヴァーはつぎつぎと現れ、その面白エピソードは積み重ねられていくのだ。

 

ちなみに溝口さんの容貌は、ロシアのプーチン大統領に似ている。

私がテレビでプーチン大統領を見るたびに、どこか後ろ髪を引かれそわそわしてしまうのは、プーチン大統領が私の好きなペルシャヒョウを手なずけていたからでもなく、返還交渉再開というニュースの直後に北方領土に最新ミサイルを配備したからでもなく、「パラダイスペーパー」で、トランプ政権の重要閣僚とプーチン大統領に直結する人物らのビジネス上のつながりが明らかになったからでもなく、彼が溝口さんに似ているからかもしれない。

口だけゆがめるようなシニカルな笑い方も、ちょっと似ている。

「プーチン大統領似女子・タモリ風味」
これが溝口さんだ。

 

本書は溝口さんの魅力にノックアウトされた年配女性が、溝口さんにつきまとい、珍騒動をくりひろげたマイノリティレポートである。
PART2につづく

 

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車内吊りセクハラ広告につき西武線から無回答でした

結果から申し上げますと、何の回答もいただけませんでした。
「車内吊りセクハラ広告につき西武線に質問してみました」

8月27日までに進捗報告をいただきたい旨申し上げ、その後相当期間経過しレスポンスがないということは、回答する意思がないということでしょう。

自社に都合の悪い質問であっても、何らかのお返事はいただきたかったです。利用乗客への不誠実な対応をとても残念に思っています。

 

セクハラ広告というのは、短期間で入れ替えられる流動的なものですので、「これを剥がしてください」というアクションは意味がなく、だからこそ掲示前の段階でのチェック機能、審査基準が重要で、ぜひこの機会に鉄道側から実態を伺いたいところでした。

男女共用スペースでのグラビアポスターやセクハラエロ雑誌広告については、人によっては「この程度のこと」思われるかもしれません。
しかし、女性を「男性の娯楽としての性存在」として軽く扱うことを日常化してしまう「刷り込み効果」というものは、その他社会のあらゆる人間関係に波及するものと考えます。

エロ雑誌やグラビア写真広告を目にしながら通勤する男性は、果たして職場の女性存在というものを「尊厳ある対等なワーカー」だと完全に切り替えられるものでしょうか。
私自身の経験からいえば、区別できる人はまだまだ少ないというのが実態です。

労働環境においてセクハラが減少しないのも、ひとつにはこのような日常風景が、「女性は男性にとって性的娯楽的消費存在」であるとする、日本全体の「集合意識」を作り上げているという点にもあると考えます。
今回はたまたま西武線に質問させていただきましたが、他の沿線でも日常的に見られる光景です。

 

ちなみに本記事をFacebookにアップした際、見知らぬ方からも反応があり、一般人が抱くであろう疑問点のまとめにもなりますので、「なぜこれが問題なのか」につき、質問者とのやり取りを貼っておきます。

 

 

>公共交通機関の場に相応しくないのか?

特にここでは、電車という公共スペースがポイントとなります。
西武線最寄り駅の方は、迂回して自由に別路線を選ぶことはむずかしく、選択困難な状況の中、半強制的にポスターを見せつけられるという状況下に置かれます。その点をご配慮いただきたかったと感じる次第です。

 

>ポスター対象は最近流行りのインスタ映えを求める“女性“です。

すでに以前のコメントでやり取りをしていますが、インスタ女性目当ての広告だという意図は理解しています。インスタ女性集客目的ならば、複数で楽しそうに自撮りする図など、性的思惑を排除したふさわしいものが作れなかったのかという疑問は残りますが、今回の質問は「公共スペースでの掲示」という点に特化しています。
そのため、ポスターの制作者・制作過程などについては質問せず、あくまで「公共スペースでの掲示」として適切か否か、審査基準と機関につき、鉄道会社におたずねしています。

 

>ポスターを眺めてニヤけるオッサンのためではありません。

女性性を強調されたポスターを見せられること自体が、女性に屈辱感を与え、心理的負荷を与えます。(厚生労働省の定める労災の「心理的負荷による精神障害の認定基準」、業務による心理的負荷評価表(別表1)特別な出来事以外の「具体的出来事」の表参照)

例えば股間がパンパンに強調された男性のビキニポスターが公共スペースに当然のように張られていたら、男性も気まずい嫌な気持ちになるのではないでしょうか。
男性の股間がクローズアップされたポスターがあればとても違和感を覚えますが、女性の胸などの部位が性的に誇張されたポスターというのは「日常風景」とされています。その違和感を女性が「我慢して受け入れる」ことを強いられるのは、やはりおかしくはありませんか。

 

>しかも、プールの広告なので、水着は問題とは思えません。

宣伝意図や商材にかかわらず、「〇〇の広告だから水着を掲示しても性的心理不可を与えないだろう」という考えは、一般に性的心理的不可のジャッジでは厳しいと思います。不快感を覚えるか否かを決定するのは、発信者ではなく受け手の側です。
もし仮に鉄道側が、「適切なチェック機能通過のうえ掲示している」という根拠があるのなら、それを示したうえで掲示を続けるのが誠実な対応だと思いました。

 

>最近ナイトプール流行っているし、グループ企業の広告はグループ内の公共交通機関が効果最大!

利用乗客にとっては「グループ企業の広告だから掲示内容が緩和される」という企業側の事情や思惑は関係ありません。経済活動のために人権が損なわれることがないよう、より人権に配慮した「公共の福祉」を意識していただきたいところです。

たしかに掲載場所によっては〇〇様のおっしゃるよう、グレーになるのかもしれませんね。
まずはこのような電車内水着広告につき、複数の女性(男性も)が実際に不快感を抱いているという事実を知っていただき、今後の相互理解につながりましたら幸いです。