鶏のオレンジ漬け赤ワインソース


中山可穂という作家を知っている人は、結構ツウといえるだろうか。
この人が名を知られるようになったのは、初期においては、作品よりも著者の性的嗜好によるところが大きいのかもしれない。
中山可穂は同性愛者である。女性なので、いわゆるレズビアンだ。
作品も、それを題材としたものが多い。

 

『悲歌(エレジー)』という短編集の中の作品、「隅田川」の主人公も、レズビアンの女性である。写真家の彼女は、若いときに女性プロ料理写真家の先生に惹かれ、夢中で恋をした。
しかしある日、先生がパリのレストランで撮影したトリュフソース付きウズラの蒸し焼きの写真を見て、突然烈しい嘔吐に襲われてしまう。

彼女はそれ以来、料理写真を見ると嘔吐がとまらなくなってしまい、結局写真業界から距離を置くこととなったのだ。先生との仲も、それきりで終わった。

その後、彼女は普通の仕事をしていたのだが、ある日、高校生の女の子ふたりの隅田川・身投げ心中事件に間接的に関わり、事件をきっかけとして再び写真を撮り始める。

 

鴨漬け①ウズラではなく鶏肉を薄く切り、マーマレード(ここではゆず)、にんにく、塩コショウ、マジックソルト(なくてもよい)、コリアンダー(なくてもよい)に漬け込む。
②30分ほど漬けたら、肉をオリーブオイルで焼く。
③きつね色に焼けたら肉を取り出し、フライパンに残った肉汁にソースを絡めて煮詰める。ソースは赤ワイン、バルサミコ酢、はちみつ、ディルウィード(パセリなどでもよい)、めんつゆか醤油。我が家では、書中のトリュフソースは再現かなわず……。

 

 

私にも、レズビアンの友達がいる。
ミキさんは、私が暇を持て余していた数年前、よく二丁目のクラブに遊びに連れて行ってくれた。小柄で細身の身体に、キリッとしたオリエンタルな顔立ち。長い黒髪をポニーテールにしている。ハキハキとした気風のよい性格で、男性からもモテそうな魅力的な女性だ。ちなみに私のことは、恋愛対象として好みではないらしい。

今も職場は変わっていないのだろうか。ミキさんは当時、中央線沿線のとある駅のベーカリーのパン職人として働いていた。彼女は周囲にも職場にもカミングアウトしていたので、書いても不都合はないと思うのだが、一応ベーカリーの名前は伏せておく。

 

ミキさんは、先天的なレズビアンだったわけではない。
高校生までは、男性にも恋愛感情を抱く、ごく普通の女の子だったそうだ。しかし高校生のとき、同級生の女子から激烈に想いを寄せられ、最初は当惑していたが、あまりに激しいアプローチに、やがて陥落したという。

本人いわく、それはミキさんにとって魂のすべてを捧げ、臓腑の裏まで搾り出すような恋愛になった。
「身も心もすべて焼き尽くすような、全身全霊で誰かを愛する経験は、これ一度きりだな。一回経験したから、この先の人生、わたしはもういいや」
彼女は、今は閉店した吉祥寺のドナテロウズで、煙草をふかしながらポツリと言った。吐いた煙の中に、誰かの顔を見ているような遠い眼差しだった。

 

鴨赤ワインソース完成完成。れんこんもオリーブオイルできつね色に。柑橘系のジャムは酸味がさわやかで、お肉もやわらかくしてくれる。

 

私は、同性愛者でない人が、どのようにして同性を愛するようになったのか、その心境の推移のほうに興味があり、ミキさんにしつこく聞いた。ミキさんはためらうこともなく、すらすらと自分の気持ちを話してくれた。

 

「最初はね、正直うっとうしかったんだ。だってベタベタ寄ってくるんだもん。この子、しつこいなって思っちゃって。適当にあしらっていたんだけど、そのうち私も辟易しちゃってさ。冷たく接するようになったの。何度かそっけなくしたら、向こうも気づいたんだろうね。寄ってはこなくなったんだけど……」
ミキさんはまた遠くを見た。この人は自分の正直な気持ちを話すとき、相手の顔を見ずによく遠くを見る。

「……寄ってはこなくなったんだけど、遠くから悲しそうな目で、じっと私のことを見てるんだよ。さすがに罪悪感がわいちゃって、ある日こっちから優しく話しかけてあげたんだ。そしたらもう、『この世の春!』って感じで、その子、ぱ~っと明るい笑顔になって」
ポニーテールで吊り上げられたミキさんの目が、優しくゆるんだ。

「わたしが話しかけただけで、ここまで一人の人間を幸せな気持ちにできるんだ! って思ったらさ、何だか愛おしくなっちゃったの」

 

私はノンケの一女性を落とした相手の女性のパワーに驚嘆した。
結局のところ世界を変えることができるのは、個人の意志力なのだろう。
個々の意志が少しずつ色を変え形を変え現実化し、精緻なモザイクタイルのようにリンクしながら、世界全体が変容し続けるのを私たちは見る。

鴨の赤ワイン漬けオレンジソース.パン付 白パンと共に。ちなみにアーモンドは生アーモンド。なかなか売っていないので、ネットで取り寄せている。かじると中の実は真っ白だ。

 

今日、タレント業の女性と女優兼ダンサーの女性が、来春に同性婚を行うというニュースが流れていた。日本では現在、法的に同性婚が認められていないため、二人は財産分与などの合意事項について公正証書を作成するという。ヤフーニュース記事の二人の笑顔は、幸せそうに輝いていた。

彼女たちが選択した幸せは、「現実」という名にかわり、これから容赦なく刃を向けてくるのかもしれない。
しかし固定観念や常識にとらわれず、自らの感情に正直に体当たりした素直さは、たしかに社会意識の総括的プログラムを組み直し、新たな模様を描くデザイン画として、意義ある一石を投じたと思う。

 

 

(有馬珠子のあめぶろ)
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