面倒な「会計検査」が終わった途端に使い捨て~(★新刊『ブラックを乗り越えた女性たち』より~)

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 しかし四月の下旬、経費削減との理由で、加奈さんはいきなり五月末までの雇止めを言いわたされたのだ。 

「かりに更新期間が六ヶ月から三カ月に短縮されたにしても、それでも六月末までは契約期間だったはず」

加奈さんはおどろいて、派遣元に問い合わせた。
すると派遣会社の若い男性担当社員は答えた。

「たしかに二月中旬に契約更新の打診をしたときは、六月末までの契約だったんですけどね。実際に契約をする三月末頃になって、財団法人から、五月末の契約に変更してほしいとの依頼があったので変更したんですよ。そのことはあなたにお伝えしたつもりでしたが……」

 加奈さんはそのような説明は、いっさいうけていなかった。本人の承諾なしに、勝手に契約内容を変更した派遣会社に憤慨した。

「だまされた! ってかんじよ。予算の都合で、切るなら切るでしかたない。でも、だったら、卑怯な手なんか使わないで、三月末で打ち切るべきじゃない? いちばんやっかいな五月の会計検査のときだけ利用してさ、その後すぐに使い捨てるってひどすぎる」 

「ほんと、手口が汚すぎるね。しかもたった一カ月じゃない。その短い期間を節約するために、だましうちみたいなやり方して。姑息にもほどがある」

 私も話を聞いて腹立たしかった。このやり口はひどすぎる。

 加奈さんの所属課では、職員の異動が多く、とくにその年度は入れ変わりがはげしかった。新しい職員は経験が浅く、会計検査の準備にも慣れていなかった。そのため、事実上は派遣社員である加奈さんが先頭きって処理を進め、検査にも立ち会ったという。
 財団法人の規定を熟知していなければできない業務であり、それ以外の分野についても勉強が必要だったが、長期にわたって仕事を任されていたという自負もあり、加奈さんは自主的に学び、多くの業務をこなしてきた。
 しかし結果は、財団法人の都合で使いたいところだけ使って、切り捨てるというやり方だ。

 加奈さんは派遣会社の担当に抗議した。その若い担当男性社員は、すぐに自分の上司に話をつないだ。

 派遣会社の上司は、まず連絡がスムーズにいかなかったことをわび、一カ月の解雇予告手当てを払うからと打診してきた。そのうえ、本来ならば六月末までの契約だったと主張する加奈さんの言についても、一カ月ぶんノーワークで満額はらうと言ってきた。

「でも、そんなのあたりまえじゃない? 要は当初の契約どおりっていうだけのことよ」

 加奈さんは、もやもやした胸のうちがおさまらなかった。

「私はね、何もお金が欲しくて文句を言っていたわけじゃないの。そりゃあ、もちろんもらえるものはうれしいけど、それ以外の気持ちの問題があった。くやしかったのは、だまされて、五月半ばまで手伝わされたこと。三月でいきなり切られたのなら、ここまでゴネなかった。仕方ないやって思ったかも。何ていうのかな……お金、ていうのはあくまで気持ちの整理のためであって、きちんとした形あるものを得ないと、ずっとこの胸のもやもやがつづくって思ったし、どうにかケリをつけたいって思って……う~ん、うまく説明できないんだけど、こんなやり方で、こんなふうな扱いって……人に対してどうなのかなって……」

 私も仕事に関しては様々なトラブルに直面し、乗り越えてきたので、加奈さんの気持ちは痛いほど理解できた。

「わかります。自分のことだけじゃないんだよね。お金をもらうのは悪いことではないし、気持ちをふみにじられた対価としても当然のことだと思うのだけど、突きつめると、それが目的ではない。ここで自分が声をあげなかったら、こんなやり方を許して泣き寝入りしてしまったら、またおなじことが繰り返されるかもしれない。次はターゲットがほかの人に移るだけ。だからこそ、労働者に対して不当な扱いをすればトラブルがおきるし、慰謝料が発生するし、結局は経済面からも組織としてデメリットになるっていうことを、派遣会社に肌身で感じてもらう必要があったんでしょ? 現実としての損失金額を目の当たりにしないと、彼らは反省も改善もしないから。そのための手段として、金銭の決着は大切だって考えたんじゃない?」

 加奈さんはひざを打った。
「そう! そうなのよ! ありがとう、言葉にしてくれて! そのとおりよ。金銭っていうのは、手段なのよね。目的じゃなくて」

 私は大きくうなずいた。
 労働問題で声をあげる人のことを、「金銭目的じゃないの?」と色メガネで見る人もいるが、決してそれだけではない心情をわかってほしい。ある種の正義感が行動を起こさせることも少なくないのだ。

「で、スムーズにいったの? 普通はそうカンタンにはいかないと思うけど」

 加奈さんは苦笑した。 

「ご想像のとおりよ。派遣会社は、六月までの一カ月分賃金の満額と、解雇予告手当で精一杯。お気持ちはわかりますが、それ以上は払いたくても、そういうものを払うシステムがないので。だって」

 加奈さんは、それじゃあ労組に相談してみますと売り言葉を口にしたところ、相手はどうぞご自由に、という感じですげなく電話を切った。

 

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