青いスープ


「長野まゆみ」という小説家をご存じだろうか。彼女の著書には、めくるめく魅惑的な名称の料理が多く出てくる。
著者ご自身が相当の食いしん坊なのだろう。食べ物を記載するときのディティールに、並々ならぬ情熱を感じる。

彼女の書下ろし長編小説に、『碧空』という作品がある。

凛一という主人公は、幼い頃に両親を亡くし、祖母のもとで華道家元を継ぐべく修業を続けていた。十四歳のとき、ひょんなことから一級上の氷川享介と出会い、恋慕の情を抱く。
氷川は京都の大学へ進学し、フットボール部で活躍する。彼は凛一の気持ちに気づきながらも深追いすることはなく、友人として、つかず離れずの関係を保つ。

高等部に上がった凛一は、氷川へのもどかしい想いを持て余しながら、写真部に入部し写真を撮り始めるのだが、そこで有沢改という謎めいた上級生に出会う。彼は凛一を写真のモデルにしたいと誘うのだった。
有沢もまた、凛一と同じく、孤独な家庭環境にあった。行きつけの舗でドライ・ジンの入ったgimletを飲みながら頼もうとしたのは「洋風かき揚げ」と「白隠元の冷製ポタージュ」。

アスパラポタージュ材料(アスパラガスの冷製ポタージュを作る。アスパラガスの旬は短い。食べられるときにひたすら食べる)

 

高校生の有沢は、家に帰れば祖母の作った老人食ならぬ「精進料理」があるが、育ち盛りの口に合わず、惣菜を買ったり外食ですませたりしている。
有沢行きつけの舗は、クラブまがいの無国籍な雰囲気の薄暗い店舗。後輩である凛一を強引に誘ったはいいが、「そろそろ帰りませんか」と促されると、「まだいいだろう」と、酒のほかに件の料理を注文しようとする。何とか凛一を引き留めようとする有沢もまた、孤独であった。

氷川への気持ちを捨てきれないが、有沢にも魅かれ、孤独な心を乱す凛一。離れ離れになりながらもお互いを求める少年たちの想いの行方が、長野まゆみ特有の美しい描写で書かれている。

 

アスパラポタージュ鍋(玉葱とじゃがいもを10分ほど蒸す。アスパラガスは時間差で、7~8分したら放り込む。

 

旬の野菜をポタージュにするのが好きだ。

「碧空」書中の「白隠元の冷製ポタージュ」もおいしそうだが、私は色味が美しいアスパラガスをよく使用する。
作り方はとても簡単で、蒸してやわらかくした野菜をミキサーで挽き、コンソメや豆乳で味を調える。
ポイントは、皮も芯もなるべく残すこと。
野菜の栄養とうまみがぎゅっと凝縮される。オイルも使わずヘルシーだし、なにより舌触りがなめらかで、口のまずい朝でもするりと入る。

アスパラポタージュ完成(辛料はホワイトペパー、ディルウィード、エストラゴン、コンソメ)

アスパラポタージュ完成パン付(TOHOベーカリーのバターロールを使用。カリッと焼いたベーコンとたまごのシンプルサンド)

 

物語の中で有沢と凛一は写真部に所属していたが、わたしは高校のとき地学部に籍を置いていた。県下一の天体望遠鏡を備える学校だったので、ものめずらしくもあったし、鍵を借りて屋上に出られる特権も魅力であった。

屋上を使用できるのは、太陽の黒点観測を日課とする地学部と、発声練習目的の演劇部だけだったので、屋上を秘密基地にできる優越感があったのだ。
新入生勧誘のときに振舞われたココアと群馬銘菓「風の子」に、義理を感じて入部したという事情もあったが。

地学部は、夜間の部活動も行っていた。流星群の時期には、学校に泊まり込んで屋上で天体観測することが許された。
親とそりの合わなかった私は、「天体観測」と称して、夜中学校に泊り込んで友達と過ごせる部活動の時間が、何より貴重で楽しかった。流星を見ながら皆で毛布にくるまり、屋上でお茶や珈琲やカップスープを飲んで過ごしたのだが、寒空の下、粉末の即席スープがとても美味しく感じられた。

あの美味しさは、「寒空の下」という気候条件のせいだけではなかった。

自分のことしか考えず我を通し、ふてくされて親と口もきかず、仲間と好きなことだけをして過ごしたあの時期の、若さゆえにご傲慢で自由な、期間限定の味だったからだ。

長野まゆみの『碧空』を読むと、旬のアスパラガスよりもまだ青かった、あの頃の未熟な自分をかいま見る。
少年から青年への、せつない端境期のものがたりである。

アスパラ原稿のラファ「あなたは今でも青いですよ」

 

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