銀杏ご飯と漬けかつお


銀杏の実は翡翠のようである。
翡翠は中国や日本で、古代からダイヤ以上に価値があるとされてきた。
トロリとしたツヤと透明度のある緑色の、まさに銀杏のような色をした質のよいヒスイは琅玕(ろうかん)と呼ばれ、特に珍重されている。現在、一級品の琅玕はビルマでしかとれない。

銀杏ご飯と漬けかつお.材料(本日のメイン材料)

 

昔の漫画だが、木原敏江の『ユンタームアリー』という作品がある。

落ちぶれた亡命ロシア貴族のお姫様が出てくるのだが、彼女は身ひとつで国を追われ、その日の生活にも困る貧乏暮らしをしていた。それなのに、豪華な琅玕の指輪だけは何があっても手放さない。決して売ろうとしないのだ。その指輪は、お姫様の下僕で召使をしていた中国人青年の形見だった。

その召使の青年は、お姫様が舞踏会のドレスにつける一輪の生花を得るためだけに、極寒の冬山を歩き回り、凍傷で指を失った。その奴隷はお姫様を崇拝し、好意を寄せていたのだ。

銀杏ご飯 (黒米はこのくらいの配分で炊いてみる。白米に対し3割くらい?)

 

やがてロシアに暴動がおこり、貴族がつぎつぎに殺害されていく。下僕の中国人青年はお姫様を亡命させるため、裏道を通って駅へ逃れさせた。
彼は「暴動がひどくてこれしか持ち出せなかった」と、お姫様を汽車に押し込み、チケットと琅玕の指輪を手渡す。凍傷で指を失ったその手で。汽車のチケットは一枚しかなく、それをお姫様に渡し、青年は「元気で」と別れを告げる。
逃亡の汽車に乗れなかった青年は、貴族を逃した罪でその後殺された。

 

漬けかつお(かつおをたれに漬ける。たれは生姜、にんにく、かつおのたたきに付いていた市販のたれ、ごまペースト。ペーストは普通のごまドレッシングでもOK。きのこは株採りのなめこ。 銀杏はかなづちで割れ目をつけ、レンジで2分ほど加熱してから殻をむく。)

 

お姫様はあらゆるぜいたくやわがままを許され、ガチガチの身分差別の教育を受け、召使のことは人間を人間とも思わない環境の中で育てられた。
しかし亡命後、琅玕(ろうかん)の指輪を手放せないお姫様の心のうちを、知人にズバリと指摘される。

「ただ君は、下僕の中国人青年を好きだったんだ。だから思い出のよすがに中国語を習い、形見の琅玕を手放せずにいる」
お姫様は、そこで初めて涙を流す。そんなことは分からない、なぜなら相手は奴隷で自分は王女だったから、と。ただ今、ここに彼がいてくれたらどんなにいいかと思う、と泣くのだ。

恋人として会話したこともなく、触れ合った経験すらない。
彼を好きだという自覚すらなかった頃の思い出が、後になってボディーブローのようにじわじわと効いてきて、心の痣となりお姫様を苦しめる。

高慢で冷ややかなお姫様の、心の奥深くに大切にしまわれた、柔らかく温かい感情である。

誰もが、そんな心の一部分を隠し持って生きているのかもしれない。

 

銀杏ご飯と漬けかつお完成(完成です)

銀杏ご飯と漬けかつお完成2 (本当にヒスイのようにつやつや。付け合せは深漬けのキムチ。)

 

似たような話を、もうひとつ。
「触れもせで」を書いたのは、小説家でありテレビプロデューサーの久世光彦氏であるが、彼が亡くなられてもう8年が経つ。

向田邦子と20年もパートナーを組み、脚本のほとんどをプロデュースした著者は、彼女とは夜を徹して、本当にいろいろなことを語り合ったという。仕事のことだけではなく、ときには脱線して、各々の思い出にも話を弾ませたと、その著書に記している。

「…原稿の書きすぎで肩が凝ると向田さんが言っても、私は気軽に揉んであげようという気になったことがない。その代わり、帰りしなに私の洋服の肩にゴミがついていても、あの人は注意してくれるだけで、決して手を伸ばして取ってくれようとはしなかった」

熱い肌を幾度合わせたって何もわからない人もいる。指一本触れもせず、十年経ってしきりと恋しい人もいる。久世光彦氏はそう語る。

「触れもせで」
相手の心の琴線に触れ、奥底にどれだけ足跡を残したか。残し続けているか。そんな相手は案外やっかいで、消せども消せどもより鮮明に浮かび上がり、存在をさらに濃く、刻みつける。

容易に光を通さぬ、謎めいた翡翠にも似て。Dカラーエクセレント、クラリティフローレスという透明度の高い最高級ダイヤモンドは、文句なしに素晴らしい。
しかし華やかではないが、深い美しさを湛える翡翠は、年齢を重ねてなお寄り添いたいと、心が囁く石なのだろうか。そのにぶい光沢の美しさに気づくのは、いろいろなことを振り返れる、折り返し地点に立ってからからかもしれない。

 

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