セクハラやパワハラの後遺症に悩む人は


最近、セクハラパワハラ被害者からご相談を受ける機会が増え、心のアフターケアについて考えさせられることが多くなりました。

複数人から聞かされた本音は、「未だに相手への憎しみを捨てきれていない。そんな自分に苦しんでいる」 という声です。
案件が進行中の人も、既に終わった人も、ハラスメントや過去の出来事を引きずり、皮膚の内側に食い込むトゲのように、痛みを抱えている人は多いようです。

私はこの相談を持ちかけられたときは、「別に憎しみを捨てなくて良いのでは」とお答えしています。
もちろん、捨ててスッキリ気持ちを切り替えられるならば、それにこしたことはないでしょう。しかし、黒い気持ちを半ば強引にクリーンな気持ちにスライドしようとするあまり、もやもやしたものがお腹にたまるならば、かえってアンヘルシーではないでしょうか。

昼と夜があるように、人間にも陽のタイプと陰のタイプがいます。昇華の仕方も人それぞれ違って当たり前だと思うのです。

「あの出来事があったから、今の自分がいる」
このように、今の幸せを心から喜べる、善良で謙虚な性格ならば、それが一番よいでしょう。ポジティブで心の強い方です。暗い谷底から這い上がってくる試練は大変な苦労だったことと思いますが、そのおかげで柔軟な筋力が身に付いたのだと思います。

しかし、もしあなたが心のどこかで「許せていない自分」がいるならば、その気持ちに素直でいるほうが精神衛生上よいかもしれません。
「あの嫌な経験があったから今の自分がいる」
「あのいじめこそが、他人の痛みをわかるようにしてくれた」
これが本心ならば素晴らしいことです。

しかし本心に逆らい、腑に落ちない気持ちに無理やりふたをして、心を善にリセットしようとするならば、逆に歪みやねじれを生じさせはしないでしょうか。

 

ですから未だに許せない相手がいても、そのマイナスの気持ちに罪悪感を抱く必要はありません。
実際、ハラスメントやいじめの体験談を聞くと、「あー……そりゃ、許せなくて当然だわ……」と思えてしまう内容ばかりなのです。

憎しみを捨てたほうが楽になれるのならば、さっさと捨てればよい。身軽になって次に進めるのは素晴らしいことです。
しかし憎しみを捨てることに、未だ自分の心がどこかで納得できないのなら、捨てる必要はないのです。捨て時ではないのでしょう。その負の感情は、案外どこかで役に立つのかもしれません。

 

「こんなもの、いったいどこで何の役に立つんだよ?」と思ったものが、後に意外なところで形を変え、生きてくることもあります。

たとえばこんな話もあります。
美容関係の友人は、壊れた傘を捨てる機会を逸していましたが、知人のホームパーティーで、あこがれの有名美容室のカリスマ美容師が、その傘の骨を抜き、ケープとしてカットしてくれたそうです。(美容師の間では傘がカットケープとなるのは、わりと常識らしいですね)

そのカット技術たるや、シザーハンズのエドワードみたいだったと、友人は頬を紅潮させて、興奮気味に話しました。
傘もただ廃棄されるより、最後まで使用されて感謝もされて、強烈に「役目をまっとうした感」があったでしょう。

 
また別の知人は、アリゾナを旅する途中、子供から壊れたコイル巻ワイヤーのおもちゃをもらい受けました。ゴミ箱があったら捨てようと思いポケットに突っ込んだのですが、捨てる場所もなく、なんとなく持っていたそうです。
遭難しかけた際、そのワイヤーを伸ばして鉄紐状にし、ナイフ代わりにしてサボテンをカットし、水分を吸い、生き延びたといいます。
本人いわく、「あれがなかったら危なかった」とのことです。

 

捨てられるのならば捨てればいい。無理ならまだ持っていればよい。役に立つときがきたら使えばよい。今はゴミとしか思えない邪魔な気持ちも、予測不能な、不思議な昇華方法が待っているかもしれません。

人生というのはびっくり箱で、何が起こるか本当にわからないものなのです。

 

 

(有馬珠子のあめぶろ)
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