マウンティング癖のある人を褒めるということ


職場のご相談にのる機会が増えてきました。やはりこのストレス社会、男女ともに最多のお悩みの原因は「人間関係」のようです。

書店では人間関係をうまく構築するためのマニュアル本や、意識の転換を伝えるメンタル本、人生訓や自己啓発の本を多く目にします。
そしてそこに比較的共通して書かれていることは、「他人を褒めることの大切さ」なのですが……。

 

他人を褒めることは、気持ちのよいことだと思います。自分が誰かを褒めたことで、その人が自信を持ち、コンプレックスを手放し、個性を発揮して活躍する様を見るのはとても楽しいものです。暗くうつむいていた人の顔がぱっと明るくなり、殻を破り、生き生きと人生の舵取りを始める姿はとても美しく、こちらの気分まで明るくなります。

「子供を伸ばす魔法の言葉」(ドロシー・ロー・ノルト著)という本もあるように、言葉というものは、人生に多大な影響を与えるのに、何のコストもかからない、極めて有効な心の栄養剤です。言語という無料のツールだけで誰かに貢献できる、素晴らしいアクションです。褒めた側の心の財産にもなると思っています。

また、「自分はあなたの良いところに気づいていますよ」と好意を示すことで、職場やコミュニティにおいて、相手との心の距離が縮まり、人間関係を構築するうえでの良好な手段にもなり得るでしょう。

 

 

ところが、ある一定の人種に関しては、これが逆効果となる場合もあります。

褒めることが逆効果となる相手―――それは男女ともに、性格に「マウンティング癖」のある人です。

このタイプには、褒めることが純粋な善意として浸透していきません。なぜならば、褒められたことで自己を過大評価し、尊大に振る舞い、褒めた相手を「見下す」などの暴挙に出るからです。

「褒める」という行為が相手を増長させ、支配者と被支配者類似の構造を生み、関係がスムーズに回らなくなるという、歓迎できない現象を引き起こす結果となるのです。

「褒めること」は、相手の性質によって、人間関係の落とし穴にもなり得ます。

 

女性が「マウンティング癖」のある男性を褒めた場合、それは「支配性」を刺激し、性差別意識に拍車をかけます。男性は自分を褒めた女性のことを「下位の存在」として設定し、「この女は俺を崇拝している」というような、歪んだ優越的視点を抱くようです。

実際、私の以前の職場の上司がこのタイプでした。
このようなケースでは、褒めることが人間同士の良好なコミュニケーションになるどころか、「上下関係」の高低差が増し、傍若無人な態度を増長させ、性差別的な暴言を生み、職場での人間関係がますますギクシャクしたものとなりますので、注意が必要でしょう。

 

また女性が「マウンティング癖」のある同性を褒めた場合、女性としての自己顕示欲が関わってきます。
このタイプの女性は、褒めた相手を「自分を羨む存在」であると位置づけ、女性として「格上」の立場を手に入れたという、勝利の心酔状態に陥るようです。ステイタスの上位に立ったと考え、対等な関係を築くという親和的視点を見失います。

やはり以前、このタイプの女性とご一緒したことがあるのですが、センスの良いブランドバッグをお持ちだったので、「素敵なバッグですね。よくお似合いですよ」と褒めただけで、女性はその後、逐一、私の服や持ち物の価格やブランドを知りたがるようになりました。そうしてチェックを入れて、常にそれよりも上回る価格のものを持つようにし、以降はそのことを過剰にアピールして話題にする……という結果となり、少々辟易した覚えがあります。

「そう、私はあなたよりもワンランク上の女性なのよ。そのこと、忘れないでね」

こういわんばかりに、褒めた相手を「自分・オン・ステージ」を彩るわき役―――パセリやプチトマトに設定し、恣意に、自分の人生舞台に登場させたいようなのです。

 

また反対に、自らを「マウンティングの下」だと卑下している女性を褒めた場合、「嫌味」だととらえられるケースもあります。
すべてを卑屈にとらえてしまう「心の癖」ができている方というのは、相手の褒め言葉すら、心のダークサイドへとスライドしてしまいます。

「今の発言って、私のことをバカにしたんじゃないかしら」
「あの人はいいわよね。そうやって他人を褒める演技で、自分の点数も稼いでいるんだから」

ちょっと信じがたい発想ですが、実際にこのように考える女性もいらっしゃいます。

 

心根が素直な方というのは、男女ともに、
「褒められて嬉しい。元気出た」「よし、もっと自分を磨こう」
「自分も誰かの良いところを見つけて、褒めてみよう」などと、ポジティブな発想に行くのですが、マウンティング癖のある方は、どうにも発想のツボが異なるようです。

人間関係というのは、本当に一筋縄ではいかないものですね。

情に掉させば流される……ではありませんが、相手を尊重しながらも一定の距離感を保つという、中庸のむずかしさを思い知らされます。

 

このように、反応の異なるさまざまなパターンに対峙してきたことからも、私は、優しさに満ちた「他人を褒めることの大切さ」が書かれたメンタル本を目にするたび、いつもどこかで、釈然としない気持ちになるのです。

「現実の人間関係は、そんなスムーズにいくほど甘くはないし、人の心も素直ではないですよ……」

このような違和感を覚えてしまう自分もまた、やはり素直ではない人種の一味なのかもしれませんが。

 

もし現在、人間関係にお悩みの方がいらっしゃいましたら、「うまくいかないのが当たり前」くらいに、鷹揚に構えられたほうがよいと思います。

人間関係というのはケースバイケースですから、書籍を鵜呑みにするのではなく、相手の性質を見極めながら、自分なりの対処法と心の避難所を作っていただきたいのです。

書籍はひとつの参考。
マニュアル書ではありませんから、その通りにうまくいかずとも焦りは禁物です。
まずは対象を分析し、適切な対応スキルを模索し、職場やコミュニティでご自身のストレスをためないよう、オリジナルの逃げ道を作ってみてください。