だいこんの葉


小学生の頃、ゆりちゃんという友達がいた。
実家がクリーニング屋を営んでいたが、そのわりに彼女の着ている服はくたびれていた。きょうだい姉妹も多く、片田舎の中流家庭に育ったわたしの目からみても、あまり裕福な家庭とはいえなかったようである。

一度だけゆりちゃんの家に遊びに行ったことがある。

昼間の早い時間帯ということもあり、家の人は誰もいなかったが、6畳ひと間くらいのスペースに家族全員で生活している痕跡が見られ、ひそかに驚いたことを覚えている。

遊びに来た私を、ゆりちゃんは給食の残りの食パンをおやつとして振舞ってくれたのだが、私はほとんど食べられなかった。

帰り際、玄関脇の発泡スチロールの箱の中の土を盛った花壇に、切り落とした大根の葉が植えてあった。そのしなびた緑色が、今でも私の目にぼんやりと焼きついている。

 

だいこんカット野菜(野菜はどんな野菜でもOK。適当にカットする。私は大根の葉も使います)

 

ゆりちゃんは中学卒業後、美容室に就職したと風のうわさで聞いた。高校に通い始めた私がある日、学校帰りに美容院を訪れると、そこにゆりちゃんがいた。まだ見習いで、箒を使ってそうじをしたり美容師さんにカーラーを手渡したりと、雑用が彼女の主な仕事であった。

向こうも私に気づき、照れくさそうにちょっと会釈などしてくれたが、私は何だかバツが悪くて、挙動不審な態度と中途半端な笑顔しか返せなかった。カット中もずっと落ち着かず、いすの上でもそもそと変な動きをしていた。
せめて制服ではなくて私服ならよかったと、学校帰りの「ついで」に美容院に立ち寄った自分の軽率さを悔いた。

 

みぞれ鍋煮る前(群馬の銘酒「水芭蕉」。野菜を巻いた豚肉を鍋にセッティングし、日本酒を注いで蓋をして蒸すだけ。調味料はゼロ。)

 

小豆島出身の女性作家、壷井栄の『大根の葉』は、書中全般にわたり貧困に満ちている。タイトルの通り、大根の葉を食べるくらい農民はみな貧しいのだ。飽食時代のヘルシー嗜好から食べる大根葉ではなく、ものがなくて仕方なく食べる大根葉である。

しかし文中から感じられるのは陰鬱な空気ではなく、著者の持ち味である母性と愛情、人間としての心の豊かさだ。

白内障の子供の目が少しでも良くなるよう貧乏な中を奔走し、改善の兆しが見えたことを心から喜び、手術代の工面のため死ぬ気で働くと決めた母親の覚悟が、読む人の心を打つ。
全編は泥臭いけれどもあたたかい。

ネガティブな現実を、前向きに精一杯生きる人々の姿をつまびらかにすることで、著者は戦争も貧困も、静かに抗議しているのではなかろうか。

みぞれ鍋完成(完成。生の大根おろしをたっぷりとのせて。たれはポン酢と栗のはちみつ、麺つゆと生醤油。)

 

思えば雑穀米も大根葉も、昔は貧乏の象徴であった。
しかし今、それらはローカロリーで滋養の高い健康食品として尊ばれている。貧困だ不幸だと決めつけるのは、一方向からの得手勝手な見方で、その実豊かな本質がひそんでいることもある。

ゆりちゃんの人生も然り、だ。
制服姿の自分に引け目を感じたことすら、私の驕りだったのかもしれない。

人は不幸の種を見つけることはたやすい。しかしどのような逆境からも幸福の芽を見つけ、満身創痍で育ててゆく努力のできる人こそ、真の教養人といえるのだろう。

その点において、わたしはまだまだ修行が足りない。

みそ汁みぞれ鍋完成(大根のみそ汁には、残った野菜も放り込んで。油揚げは油抜きをしたのでローカロリー。)

 

 

(悩んだら、ココに相談 ↓ )
「働く人のセーフティネット」は、セクハラ、パワハラ、過重労働、サービス残業などの解決を手助けする、無料労働相談会を実施しています。

(有馬珠子のあめぶろ)
多様性を認め、作業効率のよい職場を。セクハラ・パワハラ・モラハラをなくす。職場のハラスメントゼロ活動にご協力ください!

(ご協力ありがとう!)
ストレングスファインダー×モチベーションマネジメントで 強みを発掘して、153%活かす 個人からチームまで、強みと魅力を伝える専門家 スピカデザイン