あなたの周りに潜むマイルドストーカー ~PART3溝口さんの就活


(つづき)大学時代、溝口さんも私も就活への意欲がまったくなく、「いまだ手つかず」の根なし草状態を、お互いムキになり競いあっていた。
しかし溝口さんは四回生の冬頃、さすがに「マズイ」と思ったのか、重い腰をあげた。

 

当時はまだ、個人がメールを所有する時代ではなかった。就職ための会社情報は大学の「就活ルーム」に張り出され、それ以外の募集については雑誌や新聞で調べていた。そこから募集企業にあたりをつけ、電話をかけて資料請求し、履歴書を送るなどして面接にこぎつけるのだ。

 

溝口さんは授業のない昼間に、自宅から会社に資料請求の電話をかけた。就活も終わりの時期だったが、内定を得ていない学生が空席のある企業に押し寄せているのか、電話はいつまでたってもつながらなかった。

時間をおいて何度かかけたが、それでもまったくつながらない。最初は緊張し、正座して電話をかけていた溝口さんだったが、「どうせしばらくは無理だな」と思い、やがて寝っ転がり、雑誌を見ながら、背中をボリボリとかき傍らのパンをかじり、ページを惰性でめくりつつ、適当にリダイヤルボタンを押しつづけた。

溝口さんがパンを飲み込もうとしたそのとき、不意に電話がつながった。
「はい、株式会社〇△でございます」

溝口さんは飲み込もうとしたパンをのどに詰まらせ、むせて咳き込んだ。

「グホッ、グホッ、……グ、グギュ……グホホッ、ゴボッ」

「だ、だいじょうぶですか?! どうされましたか?!」

「(ゴクン)だ、だいじょうぶです。(ハアハア)すみません、パンがのどに……」

「は? パン?」

「……………パン……が喉に、つまって……。いえあの、資料請求をお願いしたいのですが……」

 

資料をとりよせ、履歴書を送付したのち、溝口さんは面接を受けた。
神妙に扉を開け、面接官にていねいにおじぎをし、大学と名前を告げた。

「△△大学の、溝口阿佐美ともうします」

「ああ、資料請求のときにパン食べてた人ですよね」

「(溝口さん)……………………。」
「(面接官)…………………………………………。」

 

「いやあ、まいったよ。その後何を話しても、面接官たちの氷のような冷たい視線が、痛いのなんのって」

「うん、まあ。世間的にはそれを自業自得というんだよね」

 
そんな経緯で溝口さんは第一希望の企業にアッサリとすべり、その後どうにかこうにか、丸の内にある医療メーカーの子会社に就職を果たした。

溝口さんも私も僥倖をよろこび祝杯をあげたのだが、その会社こそが、やがて彼女を珍妙なできごとへと巻き込むステージだったのである。
PART4につづく

 

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