「減るもんじゃなし」という発想は不法占有である


「たいせつなことはね、目に見えないんだよ……」
サン=テグジュペリ作、『星の王子さま』書中のせりふです。
おっしゃる通りで、大切な価値というのは目にみえません。

 

暗転して恐縮ですが、強姦罪が軽視されるのは、たとえば「男性器を切り取られる」等のケースと異なり、可視化できる「物理的な被害物体」が存在しないことも一因ではないでしょうか。

しかし当然ですが、可視化できないからといって、重篤な被害が存在しないわけではありません。むしろ視認できないからこそ、魂の引き裂かれるような絶望と精神的外傷は、共感力をもって深く理解されなければいけないでしょう。

 

早ければ二〇一七年から性犯罪が厳罰化される見通しです。強姦罪が懲役「三年」以上から「五年」以上になるなど、刑法が改正される可能性が高いようです。世論では「ようやくか…」という歓迎の声が上がっていますが、私はこれでもまだまだ甘いと感じています。

しかしいずれにしても、性被害の精神的損害を、測量し数値化できないという点は変わりません。

強姦罪以外の、セクハラや痴漢の性犯罪に対しては、一層軽視されています。「いいじゃないか、減るもんじゃなし」というご意見の捨てゼリフも何度か耳にしてきました。

当然の話なのですが、「女性性」は、個人所有の財産です。

しかしそのことをまったく理解できていない男性が、じつに多いのです。この宇宙時代、未だに女性は「男性の性消費物」か「従属させられる下位のメイド」か、あるいは「マリア様か妖精か」と勘違いしている、摩訶不思議な「呪い」にかけられてしまったドリーミイな男性が、巷にあふれかえっているように感じます。

 

私自身のセミナーでもたびたび説明してきたのですが、「女性性」は女性個人の権利財産であり、男性が勝手に侵害することは許されません。

もしも痴漢やセクハラといった女性性侵害に対し、「この程度で目くじらたてるな」「減るもんじゃなし」という発想を少しでもお持ちの男性がいるならば、その方は、まず自分の財産が同様に侵害され、搾取されるシーンを想像していただきたいと思うのです。

例えばもし、自分の財布から他者が勝手に千円抜き取ったら。そして怒ったところ、その窃盗犯から「千円くらいで何真剣に怒ってるんだ」と、逆ギレされたらどう思うでしょうか。

あるいは、誰かがあなたの土地に、勝手に家を建てたなら。それは物理的には欠損していませんが、違法な不法占有です。

あなたが驚いて退去を命じたところ、「なんだよ、減るもんじゃなし!」と、居丈高に開き直られたら。不愉快云々という以前に、相手の倫理を疑わないでしょうか。

女性というのは、自分の「性」に対して、このように理不尽な侵害を、いともたやすく強いられます。生まれたときから。ありとあらゆる場面で。あらゆる立場の男性から。

性的自己決定権や性的領域という、目に見えないものの価値は、とてつもなく尊いはずなのですが。

「減るもんじゃない? あのね、この土地は私のものなんですよ。立て札? 立ててあるわけではないけれど、不動産登記をしてありますから、あなたが勝手に侵入したり、あまつさえ勝手に建築物を建てる権利などないのですよ。いや、常識の問題です。ええ、減るわけではありませんよ。減らなければ勝手に何してもいいというものじゃないでしょう。は? 『へ理窟ばっかりこねてこざかしい?』……いえいえ、あのね、子供にお話しするようにもう一度言いますよ。これは私の権利所有であって、あなたのものではないんです。あなたが勝手に侵入したり居座ったり、ゴミを捨てたり、つばを吐いたり、キャッチボールしたりする権利は、残念ながらないんですよ……」

 

感覚としては、おわかりいただけるでしょうか。

要するに、女性性は「個人の私有財産」であり、男性の娯楽のために勝手に消費してよいものではないし、逆に貶めてよいものでもないということなのです。

土地にも、新旧、駅近、日当たり等の、個性は存在するかもしれません。しかし日当たりが悪いからといって、侮蔑して私有地にゴミを投げ捨ててよいものでもありませんし、時流や目的用途により、土地の価値は変動するものですから、少なくとも通りすがりの一個人がジャッジする資格などはありません。

もちろん雑草が生えていたとして、一通行人が、「女子力をあげろ」の意図で、他者の土地を「きれいにしておきなさい」と命令する権限など、さらさらないのです。

大切なのは「他人の私有地」であるという財産制と、それが「男性のものではない」という厳然たる事実です。

 

痴漢、性犯罪、セクハラ。これらは一見「減るもんじゃない」と見えたとしても、じつは女性に対し甚大な損害を与えています。

女性を性的側面でしか見ず、「オンナ」扱いすることに危機感を覚えないという男性は、改めてこの女性固有財産制を意識していただきたいと思います。それは他人の「性的自己決定権」という私有地に、ずかずかと踏み込み、「オレ像」モニュメントを勝手に打ち建てるかのごとく、自分本位な不法占有といえるのです。

 

「いいじゃないか、何かが減ったわけじゃないんだから。むしろいい土地だと目を付けてやって、モニュメントなんてプレゼントされて、ありがたがるべきだろう」

撤去どころか反省の色すら見せない、このような視座の男性は、実際には結構いるものです。

他人の所有地に無断で押し入り、趣味の悪い銅像を建て、そうすることが当然であるかのように不遜に振る舞うのは不当であると、どうか認識していただきたいのです。

職場で女性を「女」とみなすホステス「搾取」。
性的質問や性的ジョークを浴びせることによる女性性の「消費」。
あるいは年齢や容姿で価値づけたり、美しく着飾って性的価値を上げるよう要請したりする「利用」。
これらはすべて「固有財産侵害」です。

そのことに気づくことが、良好な人間関係を構築する、個人尊重への近道といえるでしょう。

 

 

 

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