「ホステスハラスメント」 その二:人の目のないところで急にホステス扱いしてくる男性


WEBデザイナーのA子さんは、独立してフリーで仕事をはじめました。

安定はしていませんでしたが、技術とセンスに恵まれていたので、それなりに仕事もくるようになりました。何より以前の会社で培った人脈が生き、声をかけてもらえることも多かったのです。クリエイティブ業界の中フリーでやっていくには、口コミと人脈と信頼がとても重要です。

A子さんは以前の会社に勤めているとき、さまざまな会社の方と仕事をしていました。
老舗宝飾メーカー、株式会社×××のH部長もそのひとりです。年齢は五十歳をすこし過ぎたくらいでしょうか。A子さんとはかねてから仕事を通じてでよい関係を築いており、在職中も何かと親切にしてくださいました。
A子さんが仕事の関連でめんどうな処理をせまられたときも、A子さんのために便宜をはかってくれて、しかもその内容はH部長の立場上、多少めんどうな経緯が想像できたため、A子さんはそのことをひじょうに感謝していました。

「一度はきちんとお礼を言っておかなければならない」

A子さんは常日頃そのように考えていました。

 

時間に余裕のできたA子さんは、友人と海外旅行に行くことにしました。

南国でバカンスを楽しんだA子さんは、顔つなぎも兼ねて、仕事関係者にお土産を渡してまわりました。出版社の編集者や、知人でおなじくフリーで情報交換をするデザイナーやイラストレーター、ライターたち。男性も女性も、誰もが一杯飲みながらA子さんの旅行話に耳を傾け、帰国の無事と土産を喜んでくれたのです。

「はい、この小物入れは△△さんだけだから」

A子さんはそう言って笑いながらみんなに、少しずつデザインの違う「オンリーワン」のお土産を配りました。男性も女性も笑顔で受け取り、楽しい旅行の話に花が咲きました。

 

A子さんはよい機会なので、H部長にもお土産を渡しがてら、改めてお礼を言うことにしました。感謝の気持ちはもちろんのこと、起業のプランも抱えていた矢先、何かあれば人脈を仕事に生かしたいと考えてのことでした。市場に精通している人だったので、情報収集も期待していました。

 

H部長の業務終了の都合なども考え、お店の場所はみずから指定せずにH部長にお任せました。H部長は、自社××株式会社の近くの大衆中華料理のチェーン店を指定してきました。

「仕事後だから、夕飯を食べながら一杯飲みたいのかな」

A子さんはそう考えそこに赴きました。

久しぶりにH部長と対面し、A子さんは気さくにあいさつをしました。思えば会社以外でH部長と会うのは初めてです。まずは仕事で便宜をはかってもらった礼を丁寧に告げ、海外旅行に行ったことを伝えて、お土産を渡しました。

知人や仕事関係者に配るため、まとめ買いした小物でしたが、適当な袋がなかったため、ブランドの紙袋に入れて持参しました。H部長が持ち帰りやすい手提げがあったほうがよいと考慮してのことでした。

「海外旅行のお土産をお渡ししたくて」と言ってそれを取り出すと、H部長は間髪いれずに言いました。

「お、エルメスの袋だね」

お土産の中身はエルメスではありません。

「袋だけですよ。中身は日常使いできる小物なんですけど。現地では人気のお土産らしいです」

そう言って手渡すと、H部長はお礼を言って受け取りました。

手渡しするとH部長は、A子さんのはめていたファッションリングに目をとめて、すぐにそれを話題にしました。

「お、ダイヤじゃないの。俺のリングと似てるじゃない」

そのように言い、H部長はご自分の手をA子さんに見せました。

ちなみにA子さんは、自分の持ち物があからさまにブランドものだとわかるもの以外、その値段を話題に出されたときは、安い額を言うことにしていました。なぜなら、それがたまたま高価だった場合、本当の値段を言うことで「気取っている」と思われ、相手との距離ができるのが嫌だったからです。
なにより、「自分はこんな高いものを身に着けてるのよ」とステイタスをアピールするようで、それは俗っぽくて恥ずかしくもあったからでした。もちろん、気の置けない友人には本当の額を言っていましたし、大阪人のように、実際に安かったものは堂々と安さを自慢していたのですが。

「ああ、これ? これ、ユザワヤで300円で買ったリングですよ。見えないでしょ?」

A子さんはそういって、大阪のおばちゃんのようにアハハハハと豪快に笑いました。本当はかなり高価な品だったのですが。

しかしそう語ったとたん、H部長の視線はきゅうに冷めたようになり、口調がトーンダウン気味になったことにA子は気づきました。

「俺のは本物だよ」

そういって一連取り巻きのダイヤリングを見せました。それを見てA子さんはふと感じたのです。

「この人はブランドや高価なものが好きなのかな」

そういえば、仕事で接していたときも、みずから高級車の話題をふってくることがたびたびありました。しかしそのときは業務の合間で、周囲にほかの社員もいたので、「じゃあその高級車で皆でドライブパーティーに出かけましょうか」「中でスナック食べちゃいますよ」などと、みんなでわきあいあいネタとして盛り上がったため、嫌味な感じはしなかったのですが。

「思っていた人とはちょっと違ったのかな?」

A子さんはきゅうに肩のコリを感じ始めました。

 

 

(その三につづく)

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