「ホステスハラスメント」 その三:女性と「人間 対 人間」の会話ができない古さ


ブランド話に興味のなかったA子さんは、話題をかえて旅行の話を切り出しました。

ほかの知人たちにも話したように、旅先の自然がすばらしかったことや、現地スタッフが日本人に好意的で楽しかったことなどを話題にし、仕切り直そうとしました。

「うらやましいな。俺はなかなかそこまでの長期休みは無理だな」

H部長はそう言って、あれこれ食べ物を注文しました。そしてビールを飲みながら調子が出てきたのか、H部長は饒舌になり、自分の話をはじめました。

「そうだ、これ見てくれよ。ほらほら、俺の高校の時の写真」

そうはしゃぎながら、自分の携帯に保存してあった証明写真らしき白黒の画像をA子に見せます。今と違い、頭髪がふさふさと豊かに生えていました。

「あら、さわやかじゃないですか」

A子さんにとっては関心のない話題でしたが、仕方なくお世辞でそう返しました。

「だろ? だろ? ちょっとあれ、俳優のアイツ、綾野剛! に似てないか?」

どうでもいいよと思いながら、A子さんは「そうですねー」と社交辞令であいづちを打ちました。H部長はひとりで楽しそうです。

A子さんはこの時点でH部長の態度にかなりうんざりしていましたので、話題を変えようと、自分もスマホに保存してあった画像を見せました。

「私、被災地の動物ボランティアに登録していまして、この子たちは一時預かりしている猫たちなんですよ。ほら、かわいいでしょう? とりあえず数カ月はうちにいることが決まっているんですが。H部長、里親いかがですか。たしか今はおひとり住まいで、ペットも飼っていらっしゃらないんですよね」

そういって、猫たちの画像を見せました。

「昼間は仕事で出てるしな。世話できないから」

H部長はその話題には興味がないらしく、あっさりと終了しました。

 

まずここまでで、ファーストレッスンといたしましょう。分からない方のために、ひとつひとつ丁寧にレクチャーしていきます。A子さんはなぜ、この時点ですでにうんざりしていたのでしょうか。
H部長とA子さんは、どこがどのように、かみ合っていないのでしょうか。わからないという方は、自らも女性に対し無自覚にセクシュアルハラスメントをしているかもしれません。

 

ご説明致します。
まずA子さんがH部長にお土産を渡しにおもむいたのは、かつて仕事関連で便宜をはかっていただいた感謝と、社会人としての仕事の顔つなぎを願ってのことです。いわゆる「人間としての感謝」と、「職業人としてのあいさつ」から再会をはたしたのです。

それをH部長は、何か思い違いをなさったようで、A子さんが「女性」であることを利用して、単に自分の楽しみのために、A子さんに「お相手」をさせ、その存在を「女性」として消費するだけの会話をかわそうとしています。

まずここが、根本的にアウトです。

H部長は、自分が一緒にお酒を飲むのに楽しい「高級ブランドの話のできる」「華やかな女性」像を勝手につくりあげ、A子さんをひたすらそのホステス枠に押し込めようとしているようです。

しかしA子さんご自身は、そのような希望に沿うタイプの女性ではありません。A子さんが大阪のおばちゃんさながらに庶民派の気楽さをアピールすれば、H部長はそれにとまどいを感じ、「ホステストーク」にのってこないA子さんに失望感をあらわにしています。

H部長は、自分の楽しみに目を向け、本来のA子さんの性質―おおらかで豪快な、ヒューマニズムあふれるキャラクター……をいっさい見ようとしていない。その一方通行な男性優位視点が、A子さんを不愉快にしているのです。

最初からA子さんの人格を見ようという気はなく、自分が好む「セクシュアルで、ブランドを付ける華やかな女性」「酒の相手をしてくれるかわいらしい受け身のホステス像」に捻じ曲げ、「おんなのこ」虚像を押しつけています。

社会に出ると、女性はこのように、女性であるというだけで、人間性を踏みにじられる場面によく遭遇します。

勝手に軽んじられ、格下に扱われる。「おんなのこ」扱いされる。そしてそのことに端を発し、セクシュアルな会話やムードを押し付けられるという「ホステスハラスメント」を受けるのです。

 

つぎにまいりましょう。

H部長が自分の若かりし頃の、髪の毛ふさふさの、ちょっと写りのよい写真をA子さんに見せてはしゃいでいる行為。これを果たして「A子さんも楽しんでいる」と思われるでしょうか。

聡い方はすでにお分かりかと思いますが、A子さんは微塵も楽しくありません。

たしかに飲み会で昔の写真を持ち出すことは、相手との関係性によっては、とても楽しいネタになり得ます。

たとえば気のおけない同級生たちの飲み会で、男子が「ほらほら昔のオレ、トム・クルーズに似てるだろ?」と尋ね、それに女子がしらけたように、「あーにてるにてる。……って、似てねぇよ!」などと突っ込みをいれて、爆笑できるような場合などは両者ともに楽しんでいるのでしょう。それは対等な友情関係や信頼がベースにあってこそ、共に楽しむツールとして盛り上がれるのです。

 

しかしH部長のケースは違います。

H部長はご自身に優位性にあると認知しながら、一方的にA子さんにを利用しています。

少々男前に映っている昔の自分の写真を、「ディスれない立場」の女性に見せ、ほぼ強制的に肯定的な答えを導き、悦にいるというのは、紳士としてあまり美しい行動とはいえません。

H部長は、「人間・女性」であるA子さんを、「性・女性」の鋳型に無理やり押し込め、ご自身の男性自己顕示欲を満たすための会話を一方的に進めています。

なにせ相手は「仕事で便宜をはかってあげた」「かなり年下の」「自分より立場が下の」「受動的に聞かざるを得ない立場」の女性です。どれほど興味のないセクシュアルな自慢話をふられたとしても、仕方なく聞かざるをえない立ち位置におかれていますから。

 

本来、このような会話をしてくださるお相手はどなたでしょうか。

お金をもらい、男性の退屈話にも耳を傾け、会話を成立させてくださるホステスさんです。H部長はそのたいくつな役割を、一方的にA子さんに押しつけています。

H部長は、A子さんが真にもとめている動物愛護など、セクシュアルを排除した話題には乗り気でないご様子です。あるいはのってきたとしても、おそらくH部長の思考回路ですと、「動物にやさしい心清らかな女の子」というような無駄な変換をして、自分本位なラベルを貼ってしまうのではないでしょうか。

 

どうやらH部長は、A子さんのことを「自分のお相手をして楽しませてくれるホステスさん」とかん違いしているようです。
これを「ホステスハラスメント」といいます。私の造語なのですが。

男性一方通行の「ホステスハラスメント」を、セクハラだと認識できない男性は、職場でも実社会でも星の数ほどいらっしゃいます。これは女性にとってたいへんストレスのたまるグレーゾーンセクハラですので、お心当たりのある男性には改めていただけるよう、広く啓蒙していきたいと思っています。

ホステスハラスメントとは、女性に「ホステスさん」役を押しつけて「セクシュアルな会話や雰囲気」を一方的に貪ろうとするハラスメントです。

ホステスハラスメント加害は、あからさまな「性的話題」を持ち出すことに限りません。だからこそ明確なセクシュアルハラスメントとして「検挙」されにくい、たちの悪いセクシュアルハラスメントといえます。

ホステスハラスメントは女性を「人間・女性」でなく「性・女性」枠に押し込めて、そのようなニュアンスを会話のはしばしににじませることで成立します。そしてそれは女性をたいへん不愉快にさせる「支配」「隷属」であり、人格権の侵害にもなり得ます。性存在を押し付けることは、セクハラであるということに、お気づきいただきたいと思います。

 

ホステスハラスメント。
まずはこの言葉を知ってください。

繰り返しますが、女性は「性・女性」だけでなく「人間・女性」も多く存在します。わたしを含め女性たちは、男性を楽しませるために存在している喜び組ではございません。世界は男性の娯楽や快楽を中心にまわっているわけではないのです。

セクシュアルな会話や雰囲気を楽しみたいのであれば、ぜひお金を払ってクラブに行かれることをお薦めいたします。

H部長は、このホステスハラスメントのハラッサーになっていることにご自身で気づくことはありません。お話はまだ続きますが、読者の皆様は「ここもホスハラだ」と意識し、気づきを得ながら読み進めていただきたいと思います。

 

  

(その四につづく)

目から鱗がポロポロ落ちるセクハラの話: これが意識の最前線!