●「共感力の個人差」~あなたの周りに潜む善玉サイコパス ~Part12


(つづき)
善玉サイコパスは「他人への誠実さ」が欠けている。
自分の気持ちには不必要なくらい誠実で正直なのだが、その誠実さは自分に対してのみ発揮され、他人への思いやりとして変換されることはない。

 

Kさんと私には、共通の知人Wさんがいる。
Wさんは最近、ツイていない出来事が続いていた。ご実家で不幸があったり、ご自身も軽い事故で入院するなどして、鬱々とした気分になっていた。
「どうも調子が悪いのよね。ゲン落としに、ぱっと楽しいことでもしたいわ」
何か面白いことがあったら誘ってね、そういって、いろいろな人に声をかけていた。

ある日Kさんをふくめ四人で食事をしていたとき、べつの友人のひとりがWさんに言った。
「吉方旅行っていうのが効くらしいわよ」

九星気学だか易なのだかよくわからないが、自分の生まれた星と相性が良い方角に、遠方の旅をするだけで気の流れが変わり、運気がアップし、プライベートも仕事も開運するという占術らしい。
「会社の同僚はね、その吉方旅行をした後すぐに本社の花形部署に異動になって、しかもそこで結婚相手まで見つけたの」

この手の話というのは、自己満足というか、ものは試しのゲーム感覚というか、話半分くらいに聞くのがいい。
Wさんも皆も、ふ~ん、そんなことがあるのねぇ、と感心したように聞いていた。

 

退院後Wさんは復職して仕事をこなしていたが、入社十年後を経過し、「リフレッシュ休暇」なるものを取得できることになった。二週間近く休みがとれることは滅多にないので、海外旅行をし、それもせっかくだから吉報旅行にチャレンジしてみると公言した。
本人も、100パーセント信じているというわけではないのだろう。
単に「せっかく長期旅行するなら、一石二鳥、気分があがる旅行にしたい」という意図なのだと思う。ポジティブな理由づけがあるほうが、せっかくの海外旅行、ワクワクしながら楽しめる。楽しみながら旅行して、おまけで良い結果までついてきたら嬉しさ倍増だ。

Wさんは吉報旅行の本を買い、付録でついていた自分の「方位」を調べ、南国リゾートへの旅行を決めた。
「これ読むとね、効果のあった人の体験談がいろいろのっていて楽しいわよ。私も吉報旅行の後、宝くじ買ってみようかしら。いっそ転職とか考えてもいいかもね」
「いいじゃない。環境が変わると、本当に自分のやりたかったことが見えてくるっていうよ。新しい発見があるかもね。楽しんできて」
私はそう言った。Kさんは黙って聞いていた。

 

さて、旅立ちの日。
Wさんはそろそろ空港かな、機内食はおいしいかな、などと考えていたその時。
「おや?」
Wさんからメールだ。お土産の打診かしらと開いてみると、そこには驚愕の事実が伝えられていた。

「今空港について、まさにこれからチェックインというところなのですが、Kさんからとんでもないメールが届いていたので転送します。どう思いますか」

なんとKさんはWさんに、吉方旅行に対する効果の薄さや危険度を長々と説明したメールを、出国当日に送ったのだ。

Kさんのメール概要はこうである。
「吉方旅行を信じるのは危険です。私の知っている人たちも、信じて旅行したのに旅行中にアクシデントにあったり、旅行後もひたすらその効果を信じていたのに成果がなかったと、かえって自暴自棄になり旅行前より不幸になった人もいます。Wさんがとても吉方旅行を信用しているようなので、一言忠告してあげたほうがよいかと思いました。PCメールですから、これを読むのは帰国後になると思います」

「………………!」
私はそれを読んで、一瞬、顔がハニワのようになってしまった。
おそらく空港でこれを読んだWさんも、おなじくハニワになったと思う。

Wさんはうんざりして、Kさんに返信した。
「私は別に、そこまでの効果を期待しているわけじゃないです。あのね、それよりも言いたいのは、これから楽しい旅行に行こうっていう人に、こういうメールをよこすのはほとんど嫌がらせですよ。旅行へのテンションが下がって、私が楽しめなくなるっていう考えには至らないの? いろいろな面で、もう少し思いやりを持ってください。他人の気持ちや立場というものを、もう少し考えてから発言してほしいと思います。PCメールに送ったっていうけれど、今はスマホからチェックできるんだから、私が旅行中にメールを見ることくらい、想像できるでしょう?」

Wさんがこれを返信した後のKさんの反応はもうお分かりだろう。
Kさんは感情的に、自分がWさんから受けた被害を、メールで友人間に拡散した。
「自分は親切心から忠告してあげたのに、Wさんは私を傷つけるひどいことを言ってきた! ねえ、ひどいよね。だって私は悪くないじゃない!」

私のところにも送られてきた。
しかし私はWさんからの転送ですべてを拝見していたので、冷めた反応しかできなかった。
Kさんは私に、以前のWさんの言動についても(独自のズレた視点から)批判をはじめ、「そういうことをする人だからこんな返信をするのだと思う」と力説した。

「やれやれ」である。

注記しておくが、Kさんに悪気はない。
ここが本当に困るところなのだ。
たとえば旅行に行くWさんのことを妬んで気分を下げてやろうとか、以前からコイツ気に入らないから嫌がらせをしてやろう、などの悪意は一切ない。
Kさんはただただ、自分の欲求に正直に、自分の感情に誠実に行動したにすぎない。
「吉方旅行は危険で効果のうすいものだから、それをWさんに伝えなければならない」

バカ正直とは、少し違う。
Kさんはとにかく、自分の心に発生した自分に興味のあることを、表に出して伝えないと、自分自身がどうにも気持ちが悪くて嫌なのだ。それをスッキリさせたくて、実行に移したにすぎない。
新しく知った知識を、すぐに誰かに伝えたい子供と一緒。
子供だから自分のことしか考えられず、Wさんへの思いやりは生まれない。

Wさん自身が書いたように、「これから旅行を楽しむ友人に、ステキな旅をしてもらいたいから、難くせつけるようなことはやめよう」とか、「せめて帰国後にさりげなく切り出そう」など、相手の立場に立った配慮や慈愛の気持ちは、Kさんの心には存在しない。

 

Kさんは、「自分自身」にだけ、「とても誠実」だ。
そして「他人に不誠実」だ。
限りない自己中心性―――。これは「個を生きる」こととは違う。
自分ワールドから一歩も出ない、「精神の引きこもり」である。

Kさんは攻撃的に怒鳴ることもないし、暴力もふるわないし、誰かを積極的に陥れることもない。
そもそも意欲的に他人を加害するほど、他人に関心など持っていないのだから。

善玉サイコパスは、「自分の欲求」と「それを満たしてくれる誰か」。「自分の興味」と「それに同調してくれる誰か」。それさえ存在すればよい。
それが自分ワールドのすべて。自分ワールドの外で何が起こっていようが関係ない。
自分・自分・自分・自分・自分―――!

すでに五十歳をすぎた彼女は、これを一生続けるつもりなのだろうか。

(Part13へつづく)

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あなたの周りに潜む善玉サイコパス: 共感力の個人差

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